第9話 新人冒険者

 次の日、店が開くあたりにツーガの店に行き、頼んでおいた装備を受け取った。と言っても、俺は『変身』するので最低限で動きやすい装備だ。頑丈な魔物の糸と革で作られたレザーアーマーである。


 ツーガの所で量産している既製品を、俺達に合わせてサイズ直しをした物だが、サイズとしてはピッタリだ。まぁ少し硬い気もするが、それは着ているウチに柔らかくなるらしい。



「それとナイフを用意しました。戦闘に使わなくても、色々と便利ですからね」


「おお! ありがとうございます」



 調理用以外のナイフなんて初めて持つな。……おお、サバイバルナイフっぽくてちょっとテンション上がるぜ。


  メテオラの方はと言うと、体の重要部分を覆うタイプの鎧を着ている。俺の革鎧よりは防御力がある、いわゆる軽装タイプの鎧だ。


 そして、武器は防御にも使える大きめのグレートソードにした。



「一応、言われた通りに用意はしましたが、メテオラ殿はクルセイダーですよね? 本当に良いのですか? 大楯も持たずにこんな軽装で? 」


 ツーガの言う事も尤もなのだが、メテオラに重い鎧なんてのは、ただ邪魔になるだけだ。


 ちなみに、グレートソードを試しに持たせて貰ったが、俺では使えない程に重かった。いや、持てはするんだよ? でも頭上まで持ち上げて振り下ろすなんてやったら、三回位で腕が駄目になりそうなくらいに重いのだ。


 しかし見た感じ華奢で少女の様にすら見えるメテオラは、軽装とは言え金属製の鎧を身につけた上で、グレートソードを軽々と振り回している。



「ていっ! はあっ! うん。いいですね。大丈夫です!」



 俺が両手でも振り回せないグレートソードを、片手でも振り回すメテオラを見て、俺は改めて『ああコイツは人間じゃないな』と再確認した。ちなみにツーガは。



「おお。流石はレベル50のクルセイダーですね……」



 と、感心していた。いや、コイツの場合はそれ以前の問題なのだが、……まぁ、いいか。


 ちなみにメテオラのステータスカードは、昨日冒険者ギルドに行く前には修正してある。だってレベル50のクルセイダーで新人冒険者なんてあり得ないからな。今のメテオラのステータスカードは、レベル3の戦士である。


 とまぁ、こんな感じで装備を整えた俺達は、ツーガにお金を払ってお礼を言い、今度こそ! と気合いを入れて冒険者ギルドへと向かった。



「えへへ、いいもの貰っちゃいましたね」


「ああ。そうだな」



 ツーガは最後に、俺とメテオラにマントをプレゼントしてくれた。フード付きのもので、水を良く弾くモンスターの革で出来ているそうだ。


 なるほど。雨の時はマントでしのぐのか。俺の常識には無かった考えだ。日本とはとことん違うなぁ。


 そして、二度目の冒険者ギルドだ。


 俺達がギルドにの扉を開けた途端に、注目が集まった。昨日の今日だ、また笑われるのは覚悟していたのだが、そんな事は無く、職員も昨日と同じお姉さんだったのだが、すんなりとギルドに迎え入れてくれた。


 俺達が不思議そうな顔をしていると、ギルドのお姉さんは苦笑して教えてくれた。



「昨日の君達みたいな新人って結構来るのよ。装備も準備も無しに、一回稼いでから準備すればいいって考える新人がね。そういう新人は、すぐに死んじゃうのよ。薬草の採取の間にモンスターに襲われたりしてね」


「そうだったんですか」


「どんなに凄い依頼を達成しても、生きて帰らないと意味がないからね。依頼は失敗する事があっても、賠償金を払う程度で済むわ。でも、命は一度失ったら終わりだからね?」


「「はい!」」


「うん。では冒険者として登録をします。ステータスカードを出してください」



 こうして俺達は、なんとか無事に冒険者になれた。


 冒険者はランク制だ。ランクはA~Gの七段階。その上になると王家直属の冒険者になるそうだ。


 まあ何にしても、俺達は一番下のGランクスタートだ。そして初めて受ける依頼はと言うと、『リンゴの収穫』である。


 ……薬草採取とかですらないのだが。そして俺としては、少しでもモンスターと戦ってレベルを上げたいのだが、許されなかった。


 まずは慣れない装備になれる為に、危険の少ない依頼を受けて貰います! と、強制だったのだ。……俺が思っていた冒険者と大分違う。


 だが仕方がないので、俺とメテオラは他の新人グループ二つと共に指定された馬車に乗り、街の外れにある農園に向かった。



「『リンゴの収穫』かぁ、Gランクの依頼だとそんなもんなのかな? 冒険者って感じの仕事じゃないな」



 昨日、メテオラと街で買い物をしている時に、リンゴが売られているのは見た。まぁ見た感じは普通のリンゴだったよ。


 そりゃ日本の物に比べたら小さいし、色も悪かったけどリンゴはリンゴだ。収穫だって日本と変わらないだろう。



「でも、ギルドの人は『最初はこういう仕事でレベルをあげるのよ』って言ってましたから、頑張って働きましょう!」



  フンス! と気合いを入れるメテオラ。どうやらメテオラは仕事をするのが初めてらしく、とても楽しみにしているのだ。


 ……しかしだ。メテオラの言葉で思いだしたが、確かにギルドの受付のお姉さんは『レベルが上がる』と言っていた。収穫中にモンスターでも来るのだろうか? それとも、虫系のモンスターとかが出るとか?


 俺のその疑問は、農園に着いてリンゴの木を見た瞬間に晴れた。



「…………そうきたかぁーー」



 たどり着いた農園では、枝の先端に付いた一抱え以上もある大きなリンゴを、ブンブンと振り回して威嚇する『リンゴの木』があった。


 地球のリンゴの木とは大分違う。木から伸びだ枝の先に、大きなリンゴが一つだけ生っているのだが、リンゴの木はそれを武器として扱っている様だ。…………どういう事だよ。


 一つの枝にリンゴが一個とは言え、一本の木として見るとかなりの数だ。それが振り回されている訳だから、あの木の側はかなりの危険地帯である。



「なるほど、だからレベルが上がるんですね」



 メテオラが、納得したようにそう言った。

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