第8話 異世界初心者

 ブルウッドの街に着いた次の日。冒険者ギルドに登録して依頼を受けようと、意気揚々とやって来たギルド内の受付にて、俺とメテオラは受付のお姉さんから、盛大に怒られていた。



「いいですか! 確かにギルドというものは来る者拒まず、全ては自己責任という事で門戸を開いています! しかしですよ! 限度というものはあるのです!」


「はい。すいません!」


「冒険者になりたい。それは良いでしょう! しかしですよ! そんな格好でここに来て冒険者になりたいと、しかも武器も持たずに討伐依頼を受けたいとは何事ですか! 私は、人に自殺を進めるためにここにいるのではありません! 私なりに誇りを持っています!」


「おっしゃる通りです! 本当に申し訳ありませんでした!」


「討伐依頼は命懸けなんです! 確かにゴブリン程度なら、木の棒でも勝ち目はあるでしょう! ですがゴブリン以外だって出て来るのです! 最低限の防具も身に付けないなど、常識がないのですか! それでは薬草の採取にも出せません!!」


「すいませんでした! ちゃんと準備して出直して来ます!」



 俺達は、冒険者達の笑い声に包まれながらギルドを後にした。



「いやー、怒られたな。すげぇ怒られた」


「あの人が怒るのも当然ですからね。だから僕は先に買い物しましょうって言ったじゃないですか!」


「いやだってさ、使わない物を買うって抵抗あるだろ? 変身できる俺にも、『時空間破壊龍』であるメテオラにも、防具なんか必要ないと思うじゃん」



 今、俺達の身に起きた事を簡単に説明すると。ジャージ姿で武器も持たずにギルドに行き、冒険者になりたいと言ったら怒られた。と言う事である。


 いやまあ確かに、逆の立場だったら俺もムカッと来るかも知れない。冒険者を舐めるなと、命懸けの仕事なんだぞと。ちょっと俺の考えが足りなかった。『変身』するし良いやとか考えてた。ちょっと考えが足りなかったのは認める。


 反省反省。と言う訳で、取り敢えず買い物から入るとしよう。しかし、どこに行っていいのか分からないので、俺達はまずこの街で商売をしていると言っていた、ツーガの店を探す事にした。



「……ここか?」


「ツーガさんが言っていた場所だとここですね。なんか、結構大きい店ですね」



 ツーガから、大体の店の場所を聞いていたので、たどり着く事は容易だったのだが、ツーガの店は結構でかかった。てっきり、護衛もつけずに外を歩いているから、小さい商店の店主だと思っていたが違ったようだ。


 そういや昨日宿屋で出された大量の料理の食材と、あの大量の酒は、ツーガからのお礼の品だったっけ。



「…………こんにちわー」


「はい。いらっしゃいませ」



 おお、外観も綺麗にしていたが、中も綺麗だ。それに、店員さんの姿も多い。俺達の所には、分厚い瓶底メガネをかけた青年が走り寄って来た。



「初めてのお客様ですね。何かお探しでしょうか?」


「あ、いや、ツーガ……さんに会いたいんだけど」


「え? ……あっ! ひょっとして、ハヤト様とメテオラ様でしょうか?」


「あ、はい。そうです」


「店主より話は聞いております! 少々お待ち下さい。今、店主に話を通して来ます!」



 どうやら、ツーガは俺達の事を店員さん達に話してくれていたらしく、俺達はツーガに話を通して戻って来た店員さんの案内で、店の奥へと通された。



「おお旦那方、よくいらっしゃいました。妹の宿の居心地はどうですか」


「凄くいいですよ。しばらくはあそこに住み着こうと思ってます」


「ツーガさん、昨日はごちそうさまでした。凄く美味しかったです!」


「はっはっは。喜んで貰えて何よりです。ところで、今日はどうされましたか?何かお困りで?」


「あっと、実はですね……」


 俺は、ついさっき冒険者ギルドであった事を、洗いざらい話した。



「くく……あ、いや……うぷぷ。こ、これは失礼を」


「あ、いえ。大丈夫ですよ。そりゃ笑いますよ、こんなの」


「い、いえ。失礼をしました。……しかし、そうですな。あの『変身』というのは、実際見ない事には信じられないでしょうな。私なども、あの様な魔道具は初めて目にしましたから。それで装備はいらないと言われても困るでしょうな」



 魔道具か。そういう扱いなんだよな。いや、間違ってはないのかな? 変身ベルトなんて、科学よりも魔法の部類だものな。


 

「それでは、武器と防具をお買い求めになりたいと、こういう事でよろしいですね?」


「はい。よろしくお願いします。ただ、俺達も装備の事はよく解らないので……」


「なるほど。でしたら、それらは私が見繕いましょう。タダという訳にはいきませんが、格安にしておきますよ。それと、冒険者に役立ちそうな物も色々と揃えておきますので、今日は採寸だけして、明日またお越しください」


「お世話になります」


「ありがとうございます」


「いえいえ。このくらいは何でもありませんとも」



 ツーガが凄く良い人で助かった。それに、とても頼りになる。俺達はツーガの言う通りに採寸を済ませて、今日の所は店を出た。


 装備の件はこれで良いだろう。しかし、今日一日がフリーになってしまったな。



「どうするかな。何かやりたい事あるか? メテオラ」


「何言ってるんですか? 買い物ですよ。買い物しないと」


「え? いやだって装備はツーガさんが揃えて……」



 俺がそう言うと、メテオラは呆れた様にやれやれと首を振った。ちょっとイラッとする。



「装備じゃなくて日用品ですよ。まさか毎日同じパンツ履く気ですか? 歯ブラシとか、食器とか、タオルとか。ある程度は持っていないと苦労しますよ?」


「…………おお。確かに」


「じゃあ納得出来た所で、買い物に行きましょうか! ツーガさんの所でも揃うでしょうが、どうせなら色々まわりましょう」



 気のせいか、メテオラが心底楽しそうである。


 でも、異世界のお店巡りには俺だって興味はある。武器屋とか防具屋とか魔道具屋とかあるんだろ? ツーガが粗方揃えてくれるだろうから冷やかしになるが、そういうのは見てるだけでもテンション上がるからな。楽しみだ。


 こうして俺とメテオラは、その日は丸一日、ショッピングをして過ごした。


 そのショッピングの中で、とあるお店の商品を言い値で買おうとしていたら、たまたま近くを通ったルルカの母親に。



「あんた達! 吹っ掛けてあるんだから、そのまま買うんじゃないよ! ちゃんと値切りな!」



 などと説教される一幕もあった。いやすげぇよ女将さん。同じ街の人なのに手加減無しで値切るんだもの。店員のおじさん泣いてたもの。


 ちなみに別の店では俺達も頑張って値切ってみたのだが、ぜんぜんダメだった。



「ダメダメだね。なんなら、ウチのルルカに習いな。あの子の値切りも相当なもんだよ? なんせ、あたしの娘だからね!」



 自分の買い物ついでに見ていた女将さんにも、そんな風に言われた。……マジかーー、ルルカちゃんも値切るのかーー。

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