第7話 宿屋『森の木漏れ日』
宿屋『森の木漏れ日』。それが、ルルカの家族が経営する宿の名前だった。宿としてはそれほど大きくはなく、一階が受付と食堂になっており、二階が宿泊客の部屋になっている。
俺達はルルカに誘われるままに宿をここに決め、二階の一室に泊まる事にした。
落ち着いた雰囲気の部屋に、ベッドが二つとテーブル一つに椅子が二つ。それにクローゼットもあるから、俺とメテオラの二人なら十分な部屋だ。
お値段は朝夕の食事付き、しかも二人で一泊小銀貨三枚(約三千円)とお値打ちだ。
なんだか俺は、色々あったせいか疲れていて、一眠りしたら夕飯まではあっという間だった。わざわざ部屋まで起こしに来てくれたルルカと一緒に食堂に降りると、何故か一番でかいテーブルに案内され、そこにはこれでもかと大量の料理や酒が用意されていた。
なんだコレ? それにやけに注目を集めているし…………。などと考えていると、この宿の女将と旦那、つまりはルルカの両親がやって来た。
「ハヤトさんにメテオラさん。お二人の事はツーガに聞いたよ。ウチの娘を助けてくれて、心から礼を言うよ。ありがとうね!」
「この料理と酒は、俺達とツーガからのお礼だ。存分に食べてくれ。足りなければ、まだまだあるしな」
「いっぱい食べてね! お兄ちゃん!」
なるほど、そういう事だったか。これは娘を助けて貰った事に対しての、二人の感謝の気持ちであるらしい。
「モンスターを倒したのは隼人さんです。僕はあの場にいただけですから……」
「何言ってるんだ。確かにモンスターは俺が倒したが、メテオラの力があったから倒せたんだ。それに、いち早く駆けつけて馬車を守っていたのはお前だろ」
「隼人さん……」
「なんだい、あんたらは随分仲がいいんだね。とにかくそういう事だから、ジャンジャン食べておくれ!」
女将さんの豪快な言葉に押されて、俺達は料理を食べ始めた。旦那さんが、他のテーブルにもお裾分けを持っていったので、食堂は一気に盛り上がった。
おおっ、ステーキは野性味溢れる感じだな。じいさんの家で食べた猪肉を思い出すな。おっ、こっちのモツ煮込みは普通に旨い。ルルカがお父さんの料理は美味しいって言っていたが、本当だった様だ。
肉も魚も色々出て来るが、他の客の様子を見ると肉より魚に興奮しているな。もしかしたらこの辺りは海からは遠いのかも知れない。
「美味しい? ルルカちゃん」
「うん!」
「ルルカちゃんは、お父さんの料理は何が一番好き?」
「うーーんとねーー、全部!!」
「そっかーー、全部かーー」
いつの間にか、ルルカがメテオラの膝の上に陣取って料理を食べている。そしてルルカの父親が、ルルカをメテオラに取られそうな怒りと、ルルカに料理を誉められた嬉しさで妙な顔になっていた。
「…………くぅ、いくら娘の命の恩人でも……嫁には……!」
いやいや、それは心配しすぎだろう。ルルカはどう見てもまだ六・七才くらいだろうに。
「ルルカ大きくなったらメテオラお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるねーー!」
「わぁ、ありがとうねルルカちゃん」
「はい、あーんして」
「あーん。……うん、美味しいね」
「えへへーー」
…………もう止めてやれメテオラ。旦那さんの目つきが人を殺せそうなくらいに鋭くなってるから。
仲の良いメテオラとルルカを見て、旦那さんの目つきがヤバくなり過ぎて女将さんが旦那さんの後ろ頭を叩いたあたりで、小さなパーティーはお開きとなった。
ちなみにこっちの世界と言うか、今いる国では飲酒は十五才からOKらしいので、俺は少し果実酒を飲んでみた。慣れない酒の味に、あまり旨いとは思えなかったが、折角なので、少しずつ慣らしていっちゃおうと思っている。……ふふ。
まぁそんな感じでチビチビやる俺の隣では、メテオラがガッツリ飲んでいた訳だが。……まったく酔った様子が無いのは、コイツが酒に強いだけなのか、例の『時空間破壊龍』だからなのか。
まあ、酔わないって事実だけで十分か。メテオラが酒にめちゃめちゃ強いってだけだしな。
食事が終わったなら、次は風呂にでもゆっくり浸かりたい所なのだが、この街には残念な事に風呂屋は無いらしい。なんでも、風呂屋ってのは戦争で負った怪我なんかの原因でまともに働けなくなった魔法使いがやる仕事らしく。中々成り手はいないらしい。
風呂の代わりとしては『生活魔法』という、体を綺麗に保つ魔法を使う魔法使いがいるらしいが、時間が遅くなったのでそれも難しい。
仕方がないので、俺達は庭の井戸で水を浴びて部屋まで戻った。体感的に暖かい季節だから良いが、これ冬にやったら死ぬな。
「あーー。僕はもうお腹いっぱいです。満足ですよ。いい世界ですねーー、この世界は」
ベッドに仰向けにダイブして『時空間破壊龍』にして、この世界を滅ぼしに派遣された魔王がそんな事を宣った。
「…………滅ぼす側の魔王が何言ってんだ」
「むーー。僕はそんな気無いんですよ?」
「…………わかってるよ。冗談だ」
ボスッと俺の顔に枕を投げて、メテオラが体を起こした。
「ところで隼人さん、明日はどうするんですか?」
「うーん。……やっぱギルドだよなぁ。レベル上げと、情報収集を兼ねてな」
「新しい鍵は使わないんですか? まさか、モンスターと戦う時まで取って置く訳じゃ無いですよね?」
「いやまぁ流石に懲りたよ。あのタイミングで悪魔バトルとか洒落にならん。しかも、レベルアップで体力が回復するらしいが、悪魔バトルだとレベル上がらないしな。万が一魔王戦であんな事になったら心が折れる」
いくら時間が止まるとしても、不安要素が多すぎる。
「じゃあ?」
「でもまだ駄目だ。レベルが足りない。少なくとも、ケルベロスと戦える位にはレベルを上げたい」
「また僕が盾になれば……」
「お前、もう一度それ言ったら怒るぞ?」
メテオラは俺の言葉に目を丸くして驚いた後、今度は凄く嬉しそうに笑った。……なんかムカつく。
……やっぱり盾にしてやろうかコイツ。
「まあ、レベル上げてなくても使えそうな鍵はあるけどな」
「…………そうなんですか?」
「ああ。『変身ライダー・ソロモン』の鍵は悪魔だけじゃない。歴代ライダーとか、劇場版の物とかもあるが、何より『魔獣キー』だな。これは多分、大丈夫だ。戦闘にならない」
「へぇーー。楽しみですね、それ」
「ま、取り敢えず明日はギルドにいくぞ」
俺はメテオラの顔めがけて枕を投げ返して、眠りについた。
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