第6話 ブルウッドの街
「いやー、助かりました。あのままでは私どもはモンスターの餌でしたから。感謝致します」
もう何度めかのお礼の言葉を聞きながら、俺達は馬車に揺られていた。御者をしているのは、この馬車の持ち主でもあるツーガという小太りのおじさんで、俺達が向かっていた場所でもある、この近くの街『ブルウッド』で商売をしている人らしい。
「ねー! お兄ちゃん達、すっごく強かった!」
そして俺達と一緒に荷台に乗っている、オレンジ色をしたおさげ髪の少女はルルカといって、ツーガの妹の子供だ。
何でも、となり街に届け物をする際に、そろそろ他の街も見せておこうとの事でルルカは同行していたそうだ。
「もしルルカに何かあれば、妹とその旦那に殺されてましたよ。街に着いたら、お礼をさせて下さいね」
「お兄ちゃん達は冒険者なんでしょ? ならルルカの家に泊まるといいよ! ね? 」
「ルルカちゃんの家に?」
「うん! ルルカん家、宿屋なの! お父さんのごはんは凄く美味しいよ! 宿の自慢なの!」
ルルカはずっとメテオラの膝の上に乗ってニコニコしている。よほどメテオラがお気に入りらしい。
メテオラも、小さい子に懐かれるのが嬉しいのか、ルルカを膝に乗せたまま会話をしている。
…………しかし、やはりと言うか何と言うか。異世界は中世くらいの世界なんだよな。モンスターがいて魔法がある世界らしいが、テンプレだな。
スマホでも持ってれば良かったか? いや、充電出来なきゃ意味無いか。
「ブルウッドに着きますよ!」
ツーガの声を聞き前方を見てみると、確かに街があった。あまり大きな街でもないらしく、立っている兵士と比較して、三メートル程の壁に囲まれた街だ。
壁の上から、なにやら円錐形の塔のような屋根が見える。教会とかかも知れないと、何となく思った。
「おお、ツーガ! それにルルカもよく帰って来たな! …………うん? 客も乗せているのか?」
「ああ、こちらはハヤトさんとメテオラさんと言って、私らの命の恩人だよ」
「命の? ……何があったんだ?」
ツーガが門番の男に野犬の事を話した。その会話を聞くと、どうやらあの野犬は『アーミードッグ』というモンスターだったらしい。
「アーミードッグ七匹を倒したのか、凄いな。……しかし、見たところ武器も鎧も無い様だが?」
「お兄ちゃんはね! 『変身』するの! ピカッて! ゴーって! それでやっつけたの!」
「…………?」
ルルカが両手をバタバタさせながら解説しているが、おそらく何も伝わっていないだろう。だって俺にも解らない。
「うーん。君、スキルカードを見せて貰えるかな?」
「あ、はい。…………どうぞ」
「ふむ。ハヤト=ホンゴウ? 聞いた事の無いファミリーネームですが、貴族様なのですか?」
門番の言葉に、ツーガが「えっ!?」って感じで振り返ったので、即座に否定した。
「いえ全然。一般人です」
「そうなのか。……と、レベル3? これでこれでアーミードッグを……? あ、いや『魔道具使い』か……。なるほど」
何やら忙しく顔を変えていたが、納得したらしい。俺は返されたステータスカードを受け取る。それと入れ違いに、今度はメテオラがステータスカードを出した。
ってか、コイツも持ってたんだな。ステータスカード。
「メテオラ。レベル…………50!? 職業は『クルセイダー』!! 何でこんなエリートがこの街に!?」
…………レベル50のクルセイダー?
俺がチラッとメテオラを見ると、メテオラはサッと目を逸らした。……さてはコイツ、ステータスカードをノリノリでいじって遊んでいたな。
「すっごーーい! 強いんだね! メテオラお兄ちゃん!!」
「ようこそブルウッドへ! 我々は凄腕冒険者を歓迎します!」
メテオラのおかげで、俺達はすんなりと、そして兵士達の熱烈な歓迎を受けて街へと入った。……なんだろう、ちょっとモヤモヤする。いや、俺よりメテオラの方が強いのは確かなんだけどね?
ブルウッドの街に入った俺達は、入ってすぐの広場で馬車から降りてツーガと別れる事になった。ここからはルルカが、彼女の家でもある宿屋まで案内してくれるのだ。
「では、旦那がた。この道を真っ直ぐ行った先に私のやっております店がありますので、何かあれば訪ねて下さい。出来る限りの事はさせていただきますので」
「ええ。何かあれば、頼らせて貰います」
「馬車に乗せてもらって、ありがとうございました」
「ツーガおじちゃん、またねー!!」
ブンブンと手を振るルルカと一緒になって、メテオラも手を振っていた。子供が二人いるようだ。
さて、異世界の街なんてものは初めて見る訳だが、思ったよりは近代的だ。そりゃあビルとかがある訳ではないが、建物は石造りでしっかりしているし、地面は石畳だし、全体的に綺麗だ。
失礼な話だが、もっとこう、古くて汚い想像だった。うん、これなら普通に暮らしていけそうだな。
「ねー! ハヤトお兄ちゃんも早く行くよーー!」
声のした方を見れば、ルルカとは結構離れていた。ルルカに手を繋がれているメテオラも一緒である。
「はーーやーーくーー!!」
「ああ! 今行くよーー!」
俺は声を上げながら、知らない街を走ったのだった。
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