第4話 変身! ソロモン!!

「あの、隼人さん」


「ん? なんだメテオラ」


「今の内に、変身してみなくていいんですか?」


「なに? 変身?」



 何を言っているんだコイツは? 変身? 敵のいない今ココで?



「…………はぁ。分かっていない」


「え!?」



 俺がため息をついて、ヤレヤレと首を左右に振ると、メテオラが驚いた顔を見せた。…………どうやら説明がいるらしい。



「いいかメテオラ、想像をしてみろ。銃を買ったばかりの人間が、店を出てすぐに箱を開いて銃を取り出すさまを。「買っちゃった~~」とか言いながら銃に弾を込めるさまを」


「……………………」



 メテオラは無言で空を仰いだ。俺の言うヤバイ人を想像しているのだろう。



「確実に危ない人だろ? 警察案件だ。どう考えてもヒーローの姿じゃあない」


「…………それは、確かに。…………え? いやでも、モンスターが出てから変身するより、今の内に変身しておいた方が安全ですよ。だって隼人さんジャージ姿なんですよ!?」


「確かに俺はジャージだ。だが同時に俺はヒーローになったのだ。普段から変身しているような、そんなビクビクした情けない姿は見せられない!」


「…………誰にですか?」


「子供達にだ!!」



 俺がキッパリとそう言うと、メテオラは眼を瞬かせた。



「…………言ってる意味がよく解りませんが、そういう物だと納得しておきます」



  俺を見るメテオラの目がちょっと冷めたものになった気がするが、気のせいだろう。



「ところで隼人さん。これから行く街には…………え!?」


「ん? どうしたメテオラ?」


「悲鳴です! 今、向こうの方から悲鳴が聞こえました!」


「悲鳴?」



 そんなの、俺には聞こえなかったが、メテオラの耳には届いたらしい。



「放って置けません! 先に行きます!」


「お、おう! 俺も行くぞ!!」



 先行して走って行くメテオラを、俺も直ぐに追い掛けた。…………のだが、メテオラの姿はすぐに見えなくなった。



「速っ! 足はっっっや!!」



 人間の速さじゃない! いや、人間じゃなかった。…………あ、俺も急ごう。


 俺が出来る限り急いで現場に着くと、草原の中の街道で、野犬の群れに襲われている馬車をメテオラが守っている所だった。


 メテオラは野犬に飛び掛かられて爪や牙を喰らっているが、それらを手で振り払っている。



「メテオラ! 無事なのか!?」


「はい! それより隼人さん! 早く!」


「わかった!!」



 …………しまった。変身ベルトはどうやって出すんだ? などと考えると、俺の腰に変身ベルトである『ソロモン・ドライバー』が現れた。そして、俺の左手の人差し指に、黄金の指輪が現れる。


 変身アイテム『ソロモン・ドライバー』は、正面には閉じた扉があり、右手側には鍵を指す普通の鍵穴が、左手側には文字の様な形が彫り込まれた特殊な鍵穴がある、全体的には白に金の装飾がされたベルトだ。


 そして俺の左手の指輪には、左手側の文字の様な形の特殊な鍵穴と、ピッタリ嵌まりそうな文字が浮き出ている。俺には読めないが、ファンブックによると『レメゲトン』と描いてあるらしい。



「なるほど、いけるな! 『変身』!」


『ゲーートセーーット!!』



 ベルトの左手側の穴に指輪を嵌めて左回りに90度回す。するとベルトから流れる『ゲートセット』の声と共に、俺の両側の地面から太い柱と、それに繋げられた開いた状態の扉が出現し「ギイィィ、バタン!」という音をたてて、俺を扉の内側に閉じ込めると、そのまま消えた。


 そして、柱も扉も消えた後には『変身ライダー・ソロモン』となった俺の姿があった。その姿は、『鍵・鍵穴・扉』の三つが組み合わされたデザインの『変身ライダー』であるはずだ。


 多少具体的に言うのであれば、頭部は複眼の様な両眼の下に、それぞれ鍵穴の様なデザインがあり、額には鍵を模した触覚のような飾りが付いている。


 両腕と両足にも鍵と鍵穴を模した鎧が装備され、胸の部分には扉を模した胸当てがあり、その両側から肩と背中にかけては、黄金の指輪を模した鎧がグルリと囲んでいる。


 それが『変身ライダー・ソロモン』の基本形態である『ソロモン・フォーム』だ。


 両手を見て握りしめる。何度もテレビで見た腕だ。それに、力が漲っている!



「いくぞ野犬ども!」



 俺は走りながら右手を横に出し、ソロモンの武器『デビルキー・ブレード』を思い浮かべる。すると、何も持っていなかった右手にズシリと重さを感じた。


 俺が持っていた玩具の『デビルキー・ブレード』が本物になっており、俺は思わずにやけてしまった。だが、すぐに顔を引き締めて、野犬の群れに集中した。


 迫り来る俺を野犬どもは敵と認識したらしく、馬車とメテオラを襲っていた七匹全部が俺に向かって来た!



「思ったよりデカイが、関係ない!」


「ギャン!?」


「ガゥ!?」



 一匹、二匹と斬り捨てる。一撃で倒すなんて事は出来ないが、それでもダメージは与えられている。すると、それを見た野犬は動きを変え、俺を囲む様に走り回り始めた。



「…………むぅ!?」



 グルグルと走り回る野犬を見ながら、俺は剣を構える。すると、その中の一匹が動きを変えたのが解った。


 まずはアイツか!


 そう考え、予想通り飛び出して来た野犬に剣を振ろうとすると。



「ガウゥゥ!!」


「ぬわぁ!?」



 背後から別の野犬が噛みついてきた! しかし、ソロモンスーツの耐久力が思った以上で、ビックリはしたがダメージは無かった。


 しかし、コイツらが走り回っているのはこの為かと、背筋が寒くなる。いくらダメージが無いとは言え、背後から噛みつかれると俺の狙いが逸れる。


 それに、このソロモンスーツの耐久力がどの程度の物なのかを俺は知らない。テレビで壊れるのを見た事はないが、あまりに強力な攻撃を受けると変身が解除されていた。


 恐らく、このスーツでもそれは起きるだろう。



「つまり、あまり悠長にしてはいられないって訳か、ならば!」



 ソロモンの悪魔の力を使うまでだ! メテオラの説明だと、レベル1の俺が使える鍵は一つだけだ。鍵の力はどれも強力だが、最初に使う鍵は決まっている!


 テレビのソロモンが、最初に手にした鍵もそれだったからだ!


 俺は剣を左手に持ち、鍵を呼ぶ為に右手を前に出す!



「…………まさか!? 駄目です隼人さん!! 今は――――!」



 離れた所から、メテオラが叫ぶ声が聞こえた気がした。



「来い! 『ケルベロス』!!」



  ────ピシィッ!!



「……………………は?」



 俺が『ケルベロス』の名を出した瞬間、急に周囲から音と色が消えて灰色になった。そして、突き出した俺の右手の前の空間に、白いヒビが入り、それが徐々に広がっている。


 って言うか、走り回っていた野犬の動きがそのまま止まっているんだけど、これ時間が止まってないか!?



「ああーー、遅かった…………」


「は? おいメテオラ、何だよこれ!? ってゆうかお前は動けるの!?」


「僕は『時空間破壊龍』ですから大丈夫です。それよりも隼人さん、『鍵』は『鍵の悪魔』と契約をしないと使えません」


「ええ!? …………あっ! テレビと一緒って事か!?」


「そういう事です。……てっきり解っているものかと思っていました」



 テレビのソロモンは、新しい力を得る為の試練を悪魔から受けていた。それは戦いだったり別の事だったりと色々あって楽しかったのだが…………。ここまで再現する必要あったか!?


 空間に広がる白いヒビは限界まで広がり、そして、周りの空間が弾け飛んだ。



『グルルルルル…………』



 そこは、満天の星が輝く石造りの闘技場。さっきまで昼間だったのにいきなり夜だ。そして、闘技場の反対側には、首が三つある大きな犬。悪魔『ケルベロス』の姿があった。

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