第3話 魔王『メテオラ』

「…………お前、何言ってんだ?」


「スルガ様から聞いていませんか? スルガ様は隼人さんに、ここで待っているのは隼人さんが倒すべき魔王の一人だと伝えたはずなのですが…………」



『後は向こうで待っている、お前が倒すべき相手に聞け』


『お前が倒すべき、十二人の魔王の内の一人が待っている』



「…………メテオラ? お前が、魔王?」


「…………はい。そうです」


「何で魔王が俺の世話を焼くんだよ! それにお前は、スルガ様って…………」


「それは、スルガ様が用意した魔王が僕だからです」



 …………用意? 自分を神の一人だと言って、俺にこの世界を救えと言ったスルガが『魔王を用意』した?


 その時、俺の頭にスルガが言った、最後の言葉が甦った。



『世界を救ってくれ。『神々の、魔の手』から』



「…………おい、この世界を魔王を使って滅ぼそうとしてるのは、まさか…………!!」


「…………はい。………………神々です」


「何だそりゃ!?」


「…………神様って勝手で気ままで、どうしようもなく退屈なんですよ。そんな中で、神々の一人が思いついた退屈しのぎが…………」


「これか! ふざけんなよ!? いったい命を何だと思ってやがる!!」


「何とも思ってないんですよ! だって神様ですから! 自分達が不老不死の存在だから、命の大切さなんて解らないんですよ!」


「…………!?」


「……でも、スルガ様は違うんです。あの人の世界は、まだ生まれたばかりであの人が大事にしている時に、滅んでしまったから。…………僕が滅ぼしてしまったから」


「お前が!?」



  俺の驚きに、メテオラは自嘲気味に笑った。



「そうですよ、魔王ですから。…………僕は人間じゃありません」


「生まれた時から魔王って事か…………」


「いえ。…………いや、合ってるのかな? 僕は『時空間破壊龍』です。スルガ様の世界でたまたま生まれた厄災なんです」



 …………『時空間破壊龍』? そこまでいくと、もはや何が何だか解らないな。



「なら、その人間の姿は?」


「スルガ様が用意してくれたものです。本来の僕は、この星よりも大きいので」


「……………………」


「隼人さんの力は『変身』ですよね? でも、変身出来る種類とかは、レベルに応じて増えるそうです。確か、レベル1につき『鍵一つ』と言っていました」



 レベル1につき鍵一つ? そうか『変身ライダー・ソロモン』は、基本スタイルから『鍵』を使う事で更に様々な姿に変身をする。俺はすでに鍵を全てコンプリートしているが、持っていても使えない訳か。



「僕は魔王です。僕を殺せば、その経験値でレベル30までは上がるはずです。僕は何の抵抗もしませんので、まず僕を殺して下さい」


「レベル上げの為に、無抵抗のお前を殺せってのか?」


「どっちにしろ、世界を救う為には必要なんです。…………神々は、自分達の用意した魔王達が世界を滅ぼすか、自分達の用意した魔王が全て倒されるかのゲームをしているんです。世界を救うには、魔王を倒した時に現れるエンブレムを十二個集める必要があります」


「…………ふざけた事を!!」


「…………僕はもう、覚悟はできています」



 そう言って、メテオラは俺に背中を向けて座り、後ろでまとめた髪を前に流して首を晒した。



「…………僕は魔王ですから、ちょっと堅いです。覚悟はありますが、出来たら、……あまり痛くはしないで下さい」



 胸の前で祈る様に手を組むメテオラ。その姿は、僅かに震えていた。



「……………………」



 中身が『時空間破壊龍』だとかいうバケモノだとして、少女の様にすら見える少年が、祈る様にして細かく震えている。


 俺じゃなくても、殺せる奴はいないと思う。……そもそも、ここで殺せる奴に、世界を救うヒーローたる資格があるのだろうか?


「…………無いな。おい、立てメテオラ。町に行くぞ」


「…………ぇ?」


「お前、泣いてんじゃねーか!! いいか『変身ライダー・ソロモン』はヒーローなんだ! 無抵抗の奴は殺さない! まして、俺にはお前が悪には見えない!!」


「で、でもレベルが…………」


「そんなもんはモンスターを倒して上げる!」


「で、でも! ぼ、僕を殺さないとエンブレムが…………」


「うるせぇな、後で考えるよ! どっちにしろ後十一人の魔王と十二人の神々が居るんだろ!? まだ先は長い!!」


「えっ!? ちょっ!? か、神々は敵じゃないですよ!?」


「敵だろそんなもん!! せめて何発かは殴らないと気がすまねぇ!!」



 俺は座り込んだままのメテオラの腕を取って立たせた。



「まったく、いつまでも泣いてんじゃねーーよ!」



 何か無いかとリュックの中に手を突っ込むと、頭の中に『収納物一覧』の様なものが浮かび、ハンカチを見つけた途端に俺の手にハンカチが握られた。…………便利だな、このリュック。



「ほれ、ハンカチだ」


「あ、ありがとうございます」



 俺は涙を拭くメテオラに、俺の中で決まった決定事項を伝えた。



「メテオラ、お前はこれから俺の助手、いや相棒だ!」


「…………ふぇ?」


「ヒーローにはそんな感じの相棒がいるんだよ。この世界を救う手助けをしてくれ」


「で、でも僕は魔王で…………」


「それは一旦忘れよう。 お前の中のエンブレムを、どうにかしなきゃいけなくなった時に考えよう」


「…………は、はぁ」



 訳が分からない。という顔をしながらも、メテオラは頷いた。何となくだが、これが一番正しい選択肢だった気がする。


 世界を救うのが目標ならば、俺は正義の味方であるべきだ。それが、異世界でどこまで通じるかは分からないが。


 ともかく、俺はメテオラを仲間にして、世界を救う旅を始める事にした。敵は魔王! …………と言うよりは神々だ。しかし、メテオラの言葉を聞く限りでは、俺にスルガと名乗った神以外は、本気で世界を滅ぼす魔王を用意したはずだ。


 …………魔王との戦いも避けられないだろう。



「…………わかりました隼人さん! 僕も協力します! まずは町に向かうんですね!」


「ああ! それにモンスターがいたら、レベル上げもだぞ!」


「はい!」



 俺はメテオラを連れて、町がある方へと歩き出した。

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