第2話 異世界の名は『カルドジプス』
「…………ぅぶですか。大丈夫ですか!」
「う、ぐぅ…………!」
視界がグルグル回っている様な、最悪な気分に抗いながら体を起こすと、そこは広い草原だった。
あれ? 何だここ。何で外なんだ?
自分の体を見下ろしてみると、俺は普段から部屋着にしているジャージ姿で…………!? 思い出した!!
「あ、あの…………?」
「え?」
すぐ隣から声が聞こえたので見てみると、そこには心配そうな顔をした少女、…………いや、少年か? がいた。
声からすると少年だろうか? 見た目的には多分同い年くらいなんだけど、どこかしっかりしている様な、それでいて幼いような不思議な印象をいだかせる少年だった。
その少年は日本人では無い顔立ちで、白い肌に金色の瞳で、髪は基本的に黒なのだが何ヵ所か赤と金になっていて、長めのそれを首の後ろでまとめている格好だ。
「えっと、こんにちは」
「あ、はい。こんにちは」
何となく挨拶をしてみたが、何だろうこの儚げな少年は? と言うか、本当にここが異世界なのだろうか? …………この少年の格好を見れば、何となく中世っぽいが。
あの神、確かスルガって言ったっけ? 俺の格好とか、もうちょっと何とかならなかったのだろうか? 異世界で部屋着て。まぁ、動きやすいのだけは間違いないけども。
「あ、あの。貴方は本郷隼人さんですよね?」
「え? 何で俺の名前を知っているんだ?」
「あ、スルガ様から聞いたんです! 僕はメテオラって言います!」
「ああそうか。あの神の使いか。俺をただ放り出した訳じゃ無かったのか」
「はい。僕は本郷隼人さんに色々説明とかをするのと…………する為に、ここにいます」
ん? ちょっとだけ良く聞こえなかったな。何だか最後の方だけ暗い顔をしたのが気になるが。まぁ、置いておこう。まずは現状把握だ。
「そりゃ有難いな。それと俺のことは隼人でいい。俺もメテオラって呼ぶから」
「は、はい。わかりました、隼人さん」
さん、もいらないんだけどな。まぁいいか。
「えっと、まず説明ですね。ここは神々には『第十三世界』と呼ばれている世界になります。星の名前は『カルドジプス』です。大きさは、地球の約三倍ですね」
「第十三世界で、カルドジプスね。…………本当に異世界な訳だ」
「はい。ここは隼人さんのいた世界とは全く違う世界です。魔法があって、魔物がいて、魔王もいる世界です」
「『魔王』か。それを倒すのが、俺の仕事か」
「えっと、そうですね。でも、その話の前に、まずはコレを受け取って下さい」
そう言ってメテオラは、草の上にシートを敷いて、色々と並べ始めた。口が紐で閉じてある革袋に、銀色のカードとリュックサックだ。
銀色のカードには、この世界のものと思われる文字が刻まれている。…………ん? でも読めるな? 『ハヤト=ホンゴウ』って、俺の名前じゃねーか。
「なんだこれ? カード?」
「それは『ステータスカード』です。この世界の人は皆、十才になるとそれを貰います。隼人さんは十七才なので、スルガ様に言われて僕が用意しました。このカードには今、名前とレベルだけが記載されています。どうぞ」
メテオラに渡されたカードを見ると、そこには確かに俺の名前と、その横にレベル1の表記があった。
「それを持って『ステータス』と言うと、自分の今の力量を見る事が出来ます」
「『ステータス』。…………おお、なるほど。本当に出るんだな、こういうの」
ステータスと言った瞬間に、目の前に半透明なステータスウィンドウが現れた。ゲームなんかでおなじみのあれだ。
『ハヤト=ホンゴウ』
体力・G
気力・G
魔力・G
力・G
防御・G
速さ・G
耐性・G
運・G
「…………なぁ、これステータスだよな? なんか、全部Gって書いてあるんだけど?」
「それはまぁ、レベル1なので」
「そうか。…………因みにこれって、何段階あるんだ?」
「基本は八段階です」
「ああ。A~Gで、その上がSなヤツか」
「はい、そうです。それとステータスは、自分にしか見えませんが、出す時に『ステータスオープン』と言うと、他の人にも見えますので、覚えておいて下さい」
「わかった」
「後はですね、あ! 加護を忘れていました。ちょっと借りますね」
メテオラは俺のカードを一旦取り上げ、カードに指を走らせてから返して来た。見てみると、名前の下に『魔道具使い』と、刻まれていた。
「魔道具使い? これは?」
「それは隼人さんの加護です。加護は全員が持っている訳ではありませんが、持っているとその職業に対しての才能が身に付きます。隼人さんは、特殊なアイテムを使うので『魔道具使い』です」
ふーん? 職業的な物かな? まぁ、持っていて悪い物でないのならいいか。
「カードについては以上ですね。あとは……」
カードの次は革袋だった。何となく予想はしていたが、中は金が入っていた。異世界らしく、金貨や銀貨に銅貨だ、それぞれ大きさの大小があって計六種類だな。
「おお! これが金貨ってヤツか! 初めて見た」
「基本的にこの貨幣は世界中で使えますが、ごく一部の国では独自の貨幣制度がある場合があります。なのでその場合には、両替をしないと使えません」
「ああ、その辺は地球と一緒だな」
「そうですね、そして貨幣の価値は日本で言えば…………」
大金貨、十万円。
小金貨、一万円。
大銀貨、五千円。
小銀貨、千円。
大銅貨、五百円。
小銅貨、百円。
「…………と言う感じです。物価としては、大銅貨があれば大体どこでも食事ができますし、小銀貨二枚あれば朝夕の食事付きで宿に泊まれます」
「…………なるほど。まぁ、使ってれば慣れるだろ」
「そうですね。この袋のお金があれば一ヶ月は生活できま」
「冒険者とかになって金を稼げば良い訳だ」
「はい。それと、こっちのリュックサックはマジックバックになってます。見た目よりも数百倍は物が入るので使って下さい。一応、幾つか役に立ちそうな物は入れておきました」
バックを持ってみるが、軽い。重さも無いのだな、ありがたい。
「説明は、以上ですね。後は、ここから向こうに歩いて行けば町があります。ステータスカードがあれば問題無く入れますので、心配いりません」
「そうか。色々ありがとうなメテオラ。凄く助かったよ、スルガによろしくな」
「はい。…………では最後に。………………僕を殺して下さい」
「…………は? 今なんて?」
俺には、数歩離れたメテオラが、俺に向けて言い放ったその言葉の意味が解らなかった。
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