第3話
朝、ふたりを出迎えたら、なぜかまおはぷんすこぷんすこ怒っていた。
あー、義兄さんにこてんぱんにやられちゃったのかな? と苦笑いしたが、予想は違った。
「まお、どうしたの?」
「まおはわかるのだ! たぶん、アキトくんよりもババぬきがつよいはずのちちうえが、まおになんかいもまけるのはおかしいことなのだ!」
義兄さん……と視線を向ければ、さすがに申し訳なさそうな顔をして、顔の前で手を合わせて、ごめんごめんと言っている。
義兄さんの優しさが、まおにとっては空回りであっただけだ。
「義兄さんは、まおが負けすぎて、好きなことか減らないようにしてたんだよ。義兄さんからしたら優しさのつもりだったんだと思うよ」
だから、怒らないであげて? と、まおを抱っこして、ぷんすこぷんすこしているまおを上下に揺らしてなだめると、服をぎゅぅっとして抱き着いてくる。……どうやら理解はできたようだが、気持ちの整理が追い付いていないようだ。
「そろそろ開院時間だから、よろしくね! ポトフとおにぎり美味しかった。……行ってきます! あ、図書カードはまおに持たせておいたから!」
相変わらず爽やかな笑顔ですこと。「いってらっしゃ~い!」と声をかければ、「いってくるね!」と走って行ってしまった。
「行っちゃったね。今日は早く起きたから、ナスの味噌汁を用意しておいたんだけど、まお、食べる? 今日はパンに卵とハムをのせて、朝食にする予定だよ」
「ヨーグルトしかたべてないからたべるのだ」
あいかわらず、朝食はヨーグルトのみですか。よく、昼まで食べなくて平気ですこと。
まだ、少しぐずぐずしているので抱っこしながらリビングまでいくと、すねていた相手がいないからか、顔を上げ、いった。
「まおのことを、まおうだとしんじてくれているとみこんで、はなしたいことがあるのだ。じゅうようなはなしなのだ」
まあ、普通の人は信じない人が多いだろうね。でも、前世があるって信じたほうが面白そうじゃない? そんな安易な考えで信じてる。まおも、賢いからそれを理解していて、それでも会って数日で信用できると思ってもらえるのはすごくうれしい。幸いといえるかはわからないけど、まおがしたいことを手伝う時間が僕にはある。
「ご飯食べながらお話しようか」
「うむ」
ごはんの準備をするので、台所の前で床におろす。準備することを理解しているのかわがまま言わず、素直におらされてくれた。
「いい子だね」
よくできたら、ほめる方針だ。案の定、素直なまおは嬉しそうにしている。両者、ハッピーなのが一番いい。
「パン、1枚食べてみる?」
残したら、僕が食べればいいし。黄身のおいしいところを味わってもらいたい。
「うむ。おなかいっぱいになったらたべてくれるか? たみがあせみずたらしてはたらいてできたものをのこすのは、こころぐるしい」
さすがは元王様だ。ご飯が食べられているのは、誰かが一生懸命働いたからこそだと理解している。この子に必要なのは、教育よりも、子どもらしい楽しい思い出なのかも。それに、この心優しい思いやりを持ったまま育ってほしい。なんでだろう? 自分の子じゃないのに、父性が溢れてくる。
「もちろん。生産者に感謝をこめて、いただこうね」
「うむ!」
まおが嬉しそうに頷く。素直でとてもかわいい。
「まお、卵割ってみる? 失敗しても大丈夫。卵焼きをパンにのせてもおいしいから。できるようになったら、ひとりで卵かけご飯食べられるようになるよ」
そういえば、気合を入れるように胸の前で握りこぶしをして、うむ! と返事が返ってきたので、卵を持たせ、フライパンをまおの前にスタンバイする。ふむ、どうやらまおは緊張しているようだ。
「大丈夫。まおなら、練習すれば上手になるからね。失敗してもいいよ。殻入っても大丈夫。僕がとってあげるから、まおの頑張っている姿がみたいな」
割れちゃうくらいに卵を握っていたのが、ゆるまった。そうそう、失敗は成功のもとだからね。
ふん! と、まおは気合を入れてフライパンに卵をたたきつけ、割れ目に小さな指を入れて割った。結果は成功! 殻は結構入ってしまったが、とれば全然問題ない。二回目も殻は入ったが、卵の原型はとどめている。
「上手! すごいよ、まおは天才だ!」
僕ってこんなにも叔父バカだったんだなと、呆れるくらいに褒めた。えへえへと、てれながら、喜んでいるのでよしとしよう。
「まおが頑張ってくれたからね、この目玉焼きはとってもおいしくなるよ。殻のことは心配ご無用、僕に任せといて」
大人になっても、うまく卵が割れなかった姉がいるので、卵の殻の処理は得意だ。ものの1分で、綺麗な卵に大変身。その様子を見て、まおは目をきらきらさせていた。しまいには拍手もしていたし。
目玉焼きのパンにするなら、まおが大惨事になるとわかっていても、半熟たまごだ。ごはんはおいしく食べるべき。汚れたら、着替えればいい。日中面倒を見ているんだから、洗濯くらい増やしても文句は言わせない。一応、汚れたところは食器用洗剤で洗っておくけどね。
目玉焼きを蒸し焼きで作成、トースターにパンの上にハムと卵をセッティングして、トーストモードで焼く。つま先立ちをすれば見れるので、焼きあがるまで楽しそうにまおは待っている。
パンを焼いている間に味噌汁を温めて、焼きあがってすぐに朝食タイムだ。
「まおが上手に割った卵、楽しみだなぁ。……いただきます」
「いだだきます!」
まずはトーストを一口。
「うん、まおがわってくれた目玉焼き、美味しい!」
まおが話したい重要な話も気になるけど、まずは上手にできたことを褒めないと。話はそれからだ。
「うむ! おいしいのだ!」
幸せそうに、トーストを食べている。……案の定、手は黄身だらけになっているけど、洋服には垂らしてなく、思いのほか上手に食べている。
「それで? まおは僕に何を話したかったのかな? すぐに聞いてあげられなくて、ごめんね」
ご飯をおいしく食べていて、話したかったことがあったことを忘れていたのか、はっとしたような顔をして、トーストを皿においた。美味しかったようで、黄身の部分はなくなっていて、皿にこぼれてしまう心配はもうない。
……忘れちゃうくらい美味しかったんだったら、食べ終わった後に聞いてあげればよかったな。深刻そうだったから、早く聞いてあげなきゃと思って、話を切り出したんだけど。
「だいじょうぶなのだ。ははうえは、まおがまおうとなのることに、しんけいしつになっていたからきりだせず、ちちうえはなにをかんがえているかわからぬゆえ、いままでだまっていたのだが、かいしゅうしなくてはならないものがあるのだ。このせかいになじんでしまうまえに、せめてまおのてもとにおいときたいのだ」
魔王である、まおも義兄さんの底知れぬ何かを感じ取ったか。言いたいことは、よくわかる。
それよりも、だ。おや? まおさん、あなた、なにか異世界からもってきたのですか?
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