第4話
「まおさん、異世界産の何かを連れてきたということかな?」
僕の身を潜めていた中二心が擽られちゃうなぁ、と考えていると、まおはふるふると横に振った。
「まおが、いとしてつれてきたわけでないのだ。このはなしをするには、まおのさいごについてかたるひつようがある。まぞくがわのりょうどはまほうしげんがほうふでな、ひとぞくとはそのつながりでわへいをむすんでいたのだ。むかしは、まぞくがなぜ、まほうしげんのほうふなとちをせんりょうしているのかりかいしたうえで、わへいをむすんでいた。だが、ひとぞくがわのせんそうでそのきろくがそんしつしたことで、せんりょうしているりゆうをつたえるしゅだんがいいつたえだけにしまった。……われわれのわへいがおたがいにかいにゅうしすぎないとけいやくしてしまったがゆえに」
まあ、このころからわれわれとむすんだわへいは、いつかこわそうとしていたのかもしれんがな、と寂しそうに呟いた。
そう考えてしまうのは無理もない、損失した時点で知っている人が書物で書き残せば良かったのだ。それをしないということは、魔族の領土の危険性を本当に理解しておらず、いつか物にしようとしていたと考えてしまってもおかしいことじゃない。
「いつしか、まぞくはまほうしげんをせんりょうするわるいやつらににんしきはかわっていった。しかし、ちゃんとしたけいやくをむすんでしまったがゆえに、ひとぞくにかいにゅうできず、じたいはあっかしていくいっぽうだった。ぜんせのまおのおやはなんとなく、ききかんがあったらしい。もし、ひとぞくのとうばつぐんがくるとしたらまおのだいになると。まおのだいには、こうけいしゃになれるのがまおしかいなかった。まおがまおうにならなければ、たもたれていたしょくもつれんさのバランスがくずされてしまう。そのことは、ちちうえがいちばんりかいしていたはずだ。それでも、せかいがくるおうが、どうでもいいからにげろといわれた。そう、たのみこまれたが、まおはまおうになった。まおは、まぞくがすきだ。だから、じぶんだけいきぬくことはできなかった」
生産者が大変な思いをして育てた食べ物を残したくないと思うまおは、言葉のとおり魔族のすべてを大切に思っていたのだろうと思う。そんなまおが、自分だけ生き抜くことを受け入れられないだろうな、と思った。……たとえそれが破滅の道だとしても。
「まおがまおうになったどうじに、ひとぞくにつたわるせいけんをひきぬくゆうしゃがあらわれた。それを、ひとぞくはまほうしげんをせんりょうするわれわれをとうばつするときときめつけたのだ。そして、まおうとしてせいしきなぎをおこなうまえに、ゆうしゃにとうばつされた。まおをまもるために、たくさんのまぞくがかばってしんだ。それなのに、われだけうつわをかえ、せかいもかえ、いきのこってしまった。せんだいまおうが、まおをいかすためにりんねてんせいのまほうをいのちをかけて、まおにまほうをほどこしたからだ」
……まおは、愛されていたんだな。でも、魔族を大切に思っていたまおには、愛だとわかっていても、自分だけが生き残ったという罪悪感を抱えるには、あまりにも寂しすぎる。自分が愛した魔族のいない世界で、異世界で一人、小さな体で抱え続けなくてはいけないのだ。
抱きしめてあげたい、どうして自分は反対側に座ってしまったのだろう。今は、手が黄身だらけでも構わない、手を握っていてあげたかった。
本当はすぐに、誰かにはなしたかっただろうに、我慢させてしまった。せめて、抱える罪悪感を少なくしてあげたい。
「まお。僕はね、まおと数日しか過ごしてない。でも、優しくて素直なまおが大好きになった。魔族の皆もきっとそう、まおのこと大好きだったから守りたかったんだって。きっと、魂になってもまおのもとに魔族の誰かが集まってくるよ。まおは健康的に過ごして、生まれ変わってきた皆を見つけたらまた大切にしてあげて。それが今のまおの役目だよ。でも、ひとりにしないよ、まおの心配事は一緒に解決しよう」
そういうと、大きなおめめから、涙が零れ落ちるかのように流れた。目が赤くなりそうなくらい、まおは涙を拭うが、止まらなそうだ。
「まおが、りんねてんせいをするために、べつくうかんがひらき、まおのまりょくが、ちきゅうにはこばれたのだ。まほうのあるせかいになるほどではないが、えいきょうがでてくる。さいわいなことに、まおのまりょくだから、しぜんとまおのいるばしょにあつまって、くる。このまちにあつまっているはず、だ。それを、にんげんにえいきょうがでるまえにかいしゅうしたい、のだ。さんぽしたはんいにいたまりょくは、かいしゅうしたが、そろそろにんげんいがいのせいぶつにえいきょうがでてくるころ、なはず。そのだんかいでどうにかしたい、のだ」
うん、これ以上、僕が耐え切れないな。
立ち上がり、まおの横に座り、お膝にのせて、だっこする。
「あ、あかちゃんみたい、なのだ」
「まおがかわいいから、だっこさせてよ。お願い」
あかちゃんみたいと照れながらも、がっちり僕のシャツを掴んでくる、かわいいなぁ。
「近所の生産者さんからまわってみようか。義兄さんに頼めば、すぐに繋がれるよ。つぎは山の持ち主さんのとこにいこう、それまでに散歩して体力つけないとね。僕の病気はすぐによくならないし、時間はある。まおが満足するまでこの街を見てまわろう」
あやしながら、そういえば、まおはうむ。うむと言いながら、泣いていた。
「お味噌汁、冷えちゃったね。温めなおす?」
「……おいしいからいいのだ。そういえば、ぜんせのゆうしゃがきになることをいっていたのをおもいだしたのだ」
ん? 最後の記憶は、あやふやだったのかな? しょうがないよね、死にそうになっている記憶なんて思い出したくないもの。
「なぜ、まほうしげんをどくせんした? おまえらがどくせんしなければ、いもうとはしななかったと。まぞくにやさしさをむけられるなら、どうしてひとにそれがむけられなかったんだととわれた。それにまおは、『ひとぞくとのわへいは、やぶったらばつがくだるけいやくをむすんでいる。わへいでやくそくしたぶんのまほうしげんは、わたしているはずだが? けいやくじょう、ひとぞくにかいにゅうできないゆえ、つかいみちはしらんが』とこたえた。そしたら、それまですきがなかったゆうしゃがうろたえたのだ、そのすきをねらってちちうえがりんねてんしょうのまほうをつかったのだ」
うわっ。本格的に、人族の王は悪い奴な可能性が高まったな。……まあ、ここは異世界だし、どうにかしてあげることもできないから。
「それで、勇者が真実にきづいてくれるといいね」
異世界にいる以上、あとは勇者任せだ。思いやりに溢れるうちの魔王様には、それをわかってもらわなければいけない。
「まおうのちからのかけらは、あのせかいにはつげんしたままだ。それがきえないかぎり、あらたなまおうはうまれる。ゆうしゃがそのことにきづくことをいのるしかないか。せかいをすくうには、まおうがひつようふかけつなのはかわらんからな」
納得してもらえたようで、何よりだ。
「今のまおは、まおの魔力で異世界化しないように阻止することと、転生してきた魔族の皆を大切にしてあげることでしょ? これ以上は考えこんじゃだめよ」
「うむ」
「もう、こんなに自分を追い込んで。少し、はやめの昼寝タイムにします」
あたためたタオルを目にあてながらそういえば、まおは嬉しそうに笑う。
「アキトくんは、まおのぜんせのさんぼうみたいなことをいうのだ」
その言葉に、僕の心臓はドクンっと高鳴った。なんでだろう?
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