第12話 集落から街へ…そしてゴーンゾの旅立ち

 ゴーンゾが集落の人たちに魔力や魔法を教えはじめて一年がすぎる頃には百人ほどの集落民のほとんどが何かしらの魔法を使えるようになった。生活魔法の火や水はもちろん、土からナイフや鍋に食器・テーブルや椅子もかなりの固さで作れる人も出てきたし、突風を出したり空気で樹を切れるようになった人もいる。


 それらの魔法を発展させて土や火や氷で矢や槍を作って飛ばしたりできる『攻撃魔法』を使える人も増えてきた。


『攻撃魔法』を使える人と剣や槍が得意な人たちでケモノのいる森に行き、たっぷり獲物を持ち帰ってくることができるようになり、集落の人たちも生活に余裕ができたのか、何人も赤ん坊が産まれるようになった。


 ゴーンゾは鑑定を使って森の中で薬草を何種類も見つけて、集落の人たちに教えた。身体の弱くなった年寄りや妊婦たちに魔法で出した水でゆっくり薬草を煮出した薬湯を飲ませると身体が楽になって効き目があるようだ。


 妊婦や女性のほとんどに『清浄クリーン』をしっかり教え込み、身体を清潔に保つことと赤ん坊産まれたら病気にかからないように、一日に何度も『清浄クリーン』をかけることを守らせた。


 集落のまわりにある畑も森の樹を切りひらいて広げた。その樹を使って集落民の家を建て、集落は村へと変わり始めた。


 一番ケモノを狩るのが得意なミリバに村の長になってもらおうと誰からともなく言い始め、それに異論のある者はいなかったので、村長になった。


 二年が過ぎ、土魔法が得意な者たちが交代で作った硬い土壁で村のまわりを囲み、ケモノよけのするどいトゲの生えたさくも造った。


 ゴーンゾはミリバに替わってケモノ狩りのリーダーになり、毎日森で獲物を持ち帰ってくるようになった。


 村の住民も増えた。


 今まではガーシェ大帝国から流れてきた人たちを受け入れる余裕が無くて、定住する人は少なくてどこか他の土地に流れていってしまったが、村の形が整うとともに定住する人が増え、その人たちにもゴーンゾが魔力や魔法の使い方を教えて、ケモノを狩れる強い魔法が使える者を増やした。


 ゴーンゾが初めてオオカミたちを狩ってから五年が過ぎた。


 もう村は人が増え囲いも広げて街と呼べる規模になった。


 ミリバの指導で土魔法と水魔法が使える者が協力して街中に何ヶ所も井戸を掘り、生活魔法で水を出せる者も多くなったので、湖は水くみをする場所ではなく、岸辺近くに造った水を飲みに来るケモノを狩る狩猟小屋に威力のある水魔法や風魔法が使える者が交代しながら常駐して安定してケモノを狩れる場所になった。


 畑のまわりにも同様に井戸を掘って農業用水は確保した。


 他の土地から流れてきた者たちは狩猟でも農作業でもその者が得意なもので生活できるようにミリバや集落の時代から一緒に苦労してきた者たちが知恵を出し合って街づくりを進めていった。


 ケモノ狩りも四〜五人で組を作り、森の数ヶ所で狩猟をするようになり、街に暮らす人たちの腹を充分に満たせる肉を手に入れることができている。


 ゴーンゾは狩猟のリーダーを他の者に任せて、生活魔法や水魔法で魔力の多い者を十人集めて森に連れて行き『治癒魔法』の練習をさせていた。


 森で『人型のケモノ:ゴブリン』を生きたまま捕まえてきて、土で作ったベットに縛りつけて手足や胴体に傷をつけ、頭の中で『元に戻りますように、治りますように』と強く念じながら「創造神サリーエス様の奇跡の御業をこの手に:治癒ヒール」と唱えさせてから傷を治す練習だ。


 一日に何匹も使って厳しく練習させ、全員が内臓にとどく深い傷や複雑骨折も治せるようになってから街に戻り、手足に深い傷や複雑骨折を負って満足に動けない人たちのところに行き、『治癒魔法』が使えるようになった十人に交代で治させた。


 病人のところに行ったときには『健康な身体を取り戻せますように、病気の元が身体の中から消え去りますように』と強く念じながら、傷や骨折を治すときより多めに強く魔力を使うように教えて、それができるようになったか確かめた。


 街に古傷を持つ人や病人がいなくなったとき、ゴーンゾは『治癒魔法』が使えるようになったと認めた十人に言った。


「みんなよく頑張ったな。もうオレが教えなくても人を治すことはできるようになった。これからは生活魔法や水魔法を使える人の中から全員が三〜四人ずつ弟子でしをとって『治癒魔法』を教えてくれ。弟子たちが『治癒魔法』を使えるようになったら、その弟子たちが他の人を三〜四人弟子にして、それを何度も繰り返していけば、この街に『治癒魔法』を使える人が増え続けることになる。自分たちだけの秘密にしちゃダメだよ。ただし火や土や風の魔法が得意な人は『治癒魔法』は使えないかもしれないから、それをよく言い聞かせてから教えるようにしてくれ」


 ゴーンゾはそう言い残すと、ミリバに会いに行った。


「よう!、ゴーンゾ。お互い忙しくて、なかなか会うことが無かったけど、今日はなんだ?、何か問題でもあるのか?」


「久しぶりだねミリバ。最近は森に行ってないからちょっと太ったんじゃないの?、たまには外に出ないとダメだよ、ハハハハハハ」


「いやわかってるんだけど、街をつくっていくのも楽な仕事じゃなくて、森に行きたくても行けないんだよなぁ……」


 ぽっちゃりお腹になってしまったミリバとその周りにいる集落時代からの顔なじみのおっちゃんたちも自分のぽっちゃりしたお腹やたるんだ太ももをさすりながら、悲しい顔をした。


 他のものがそんなことを言ったらブチ切れるところだが、集落時代からの顔なじみたちにとって、ゴーンゾは魔法を教えてくれた恩人なので何も言い返せないのだw。


「美味しいお肉の食べ過ぎだよ。魔法の練習もさぼってるんじゃないの?、ダメだよそれじゃ〜〜」


 そこにいる者たちは顔を伏せてしまった。たしかに言われたとおりで、肉も腹いっぱい食べてるし、魔法の練習もしていない。ゴーンゾにはすべてお見通しなのだ。


「まぁそれはおいおい思い出したときに時間をつくって森で鍛え直すとして、実はしばらく街を離れようと思っているんだ。たぶん五〜六年は帰ってこないと思うよ」


「えっ、五〜六年も…、どこに行くんだ?。本当に帰ってくるのか?」


「うん、この街から出て海を見に行きたいんだ。たぶんずーっと南に行けばたどり着くとは思うんだけれどね。街を離れているあいだに怪我人や病人が出ても『治癒魔法』が使える人を十人鍛えたし、その十人が他の人に教えるように言ってあるから大丈夫だと思う。ケモノ狩りも農作業もオレがいなくてもやれてるから、今なら自分が行ってみたいところに行ってみてもいいかなと思ったんだよね」


「そうか…、ここが小さな集落だった頃からまだ子供だったのにずいぶん頑張ってたからなぁ…。ゴーンゾがいてくれたからこの街ができたんだから、行きたいところがあるなら行ってくればいい。お前の両親のことはオレが面倒をみるから、気にしないで大丈夫だぞ」


 集落時代からの顔なじみのみんなも強くうなずいている。ゴーンゾはニッコリ笑って言った。


「海に行く途中で生活の苦しい集落や村を見つけたら、この街に来るように言うから、受け入れてくれるかな?」


「ああ、任せておけ!」


「わかった、じゃあ行ってくる。みんな元気でね」


 ゴーンゾは家に帰り、両親に街を五〜六年は離れて海を見に行きたいんだと告げた。父親は突然の話で驚いていたが、母親には思い当たることがあった。


「ゴーンゾ、そういえば小さい頃に湖を見ながら「魚が食べたい」って言ってたけど、本気で言ってたのね」


「あー、お母さんもそれ覚えてるんだ。オレはずーっと魚が食べたいと思っていたんだよw。この街も落ち着いてきたから、やっと願いをかなえることができそうなんだ。二人のことはミリバや集落時代からの顔なじみのおっちゃんたちに頼んできたからね。怪我したり病気になっても治せる人を増やしてるから、それも大丈夫だよ」


「わかったわ。それでいつ行くの?」


「明日行く!」


「「明日〜〜!!」」


 両親は、もっと前に言えばみんなで宴会を開いて送り出したのに……とブツブツと言い出したが、ゴーンゾはそんな大げさなことにはしたくなかったので直前まで黙っていたのだ。


 まぁ決めたんならしかたがないとあきらめてくれたが、今晩だけはと言って、久しぶりに布団を並べて同じ部屋で寝た。


 両親が眠りについたころにゴーンゾは心の中で『創造神サリーエス様に授かった加護と魔法の力で今日まで頑張れました。ありがとうございます。明日からは海にむかって旅立ちます。』と創造神様にご報告した。〚そうか、よく頑張っているのは知っているよ。どうやって海にたどり着けばいいのかわからないだろうから、明日街を出るときに出会う白い鳥を旅の仲間として一緒に行くといい〛と声が聴こえてきた。


 旅の仲間か………どんな鳥なんだろう………楽しみだなぁと思いながらゴーンゾは眠りについた。


 翌朝街の出口まで両親と歩いていくと、剣をかついで防具を身に着けたミリバや槍や斧を持った集落時代からの顔なじみのおっちゃんたちがいた。


「ゴーンゾ、お前にからかわれたのが悔しくて昨夜は眠れなかったぞ、ハハハハハ。だからみんなで久しぶりに森でひと暴れしてくるところだ。お前はもう街を出るのか?」


「うん、今から海にむかって行くよ」


「そうか、じゃあ元気で行ってこい。いつでもいいから必ず帰ってこいよ」


「わかった!、じゃあね」


 大きく手を振りながらゴーンゾは街を出ていった。そこにいるみんなも大きく手を振ってゴーンゾを見送った。


 街を出てしばらく歩いていると「ピィィィ〜」と鳴きながら白い鳥が目の前に舞い降りてきた。くちばしとするどいツメを持つ鳥だ。


 鷹かな?それともトンビ…?いやいやハヤブサか……?、まぁなんでもいいや。


「おい、オレはこれから海にむかって行くんだけど、一緒に来るか?」と言ってみると、「ピィィ」と鳴いて左肩に乗ってきた。


 ゴーンゾは創造神様がつかわした白い鳥を旅の仲間にして、海を目指して歩いていった。



 



 








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