第11話 秘密が明かされる日
ゴーンゾが日課の湖での水くみに行くと、そこには先客がいた。
森から出てきたオオカミたちだ。
ケモノたちも喉が乾くのは人と同じだから、森から出てきて湖に来る。
今まではケモノたちがたっぷり水を飲んで満足していなくなるまで地面に伏せて静かに待機していたが、魔法で作った銃弾の威力をケモノで試したくなったので、命中率を上げるために両足を肩幅に広げて軽く膝を曲げて重心を落とし、T字型の枝を両手で握りしめて、ゴーンゾに尻尾を向けて水を飲んでいる一番大きなオオカミの尻を狙って、できるだけ硬くなるように強くイメージした土の銃弾を三発連続で放った。
放った土の銃弾はオオカミの尻尾の付け根に命中し、後ろ足を吹き飛ばされて一番大きなオオカミはその場にヨロヨロと倒れ込んだ。
周りにいたオオカミがこちらにむかって走り出して来たので、なるべく顔の中心に当たるようにざっくりと狙いをつけて、土の銃弾を連発した。
ギャンギャンギャンと鳴いて三頭のオオカミが顎や顔の一部を吹き飛ばされて血だらけなって倒れ込んだ。
そのまま残りのオオカミたちに土の銃弾を打ち続けたら、銃弾が当たらなかったオオカミたちは逃げ去っていった。
その場に残った傷ついたオオカミたちをどうしようかなと考えたが、集落に持ち帰ってみんなで食べようと決めた。
威力のある魔法が使えるようになったことを両親や集落の人たちに教える頃合いかなと思ったのだ。
ゆっくりとオオカミたちに近づきながら、慎重に狙いをさだめて、土の銃弾で頭部を吹き飛ばした。
一番大きなオオカミは、前足だけで襲いかかろうと牙をむき出してうなっていたが、目と目の間を狙って土の銃弾でとどめを刺した。
しとめた四頭のオオカミを一度に集落に持ち帰るにはどうするかなと考えて、土で台車を作ってみた。
重量物を運べるようにガッチリとした車輪と厚みのある荷台のやつだ。
一番大きなオオカミを荷台に乗せるのには力が足りないので、オオカミごと荷台の高さまで土を盛り上げてゴロンと転がして台車に乗せた。
荷台に乗せたオオカミたちが落ちないように、荷台のふちを盛り上げて、集落までゆっくり運んだ。
集落にたどり着く前に、手から出した水で水桶をいっぱいにしておいて、集落の中に入った。
集落に入って「オオカミを狩ってきたから、誰か手伝ってーー!」とできるだけ大声で叫んだら、近くにいた人たちが集まってきた。
オオカミたちを乗せた台車のところまでみんなと一緒に行って、ゴロゴロ転がしながらも集落の広場まで運んだ。
まだ身体の小さい子供がオオカミを狩ってきたことに驚いていた人たちも、さっそく手分けして解体しはじめたが、解体するためのナイフや包丁がたりなさそうなので、土を鋼鉄の硬さで固めたナイフと包丁を五本ずつ作って「解体するのにコレを使って〜〜」と言いながら集落の人たちに近づいていった。
いきなりナイフと包丁を作り出したゴーンゾにみんなは目を丸くして驚いていたが、ありがたく使わせてもらうよと言いながら受け取った。
集落で一番ケモノを狩るのが得意なミリバが近づいてきてゴーンゾに
「おい、ゴーンゾ。このオオカミたちは身体を吹き飛ばされてるけど、どうやったんだ?。それにこの台車とナイフや包丁はお前が作ったけど、いつからそんなことができるようになったんだ?」
両親も近づいてきてゴーンゾを見つめた。
ゴーンゾは自分の秘密をみんなに教える日がきたと思っていたので正直に答えた。
「フォレストボアに身体を飛ばされて意識が無かったことがあったけど、目覚めてから火種係のおじいさんに指先から火を出す魔法を教えてもらったんだ。それから水を出す魔法もね。魔法を教えてもらってできるようになってからは、もう二度とケモノにケガをさせられるのはイヤだし、みんなにもケガをしてほしくないから、ケモノを狩る魔法が使えないか湖のそばで練習していたんだ。」
「ケモノを狩るときにヤツラの頭に石をぶつけてるのは見てたから、土をガッチリ固めてケモノにぶつけられないかと練習していたらできるようになったんだ」
ゴーンゾはそう言うと、土の銃弾を二つ手のひらに作り出してミリバに渡した。
ミリバや両親は土の銃弾を握ったり叩いたりして硬さを確かめた。
「コレは石と同じかそれよりも硬そうだけど、どうやってケモノに当てるんだ?」
ゴーンゾは集落に生えている大人の太ももくらいの太さの樹を狙って、T字型の枝を両手で握りしめて、ちょっとだけ柔らかくした土の銃弾を三発放った。
シュンシュンシュンと風を切る音とともにバンバンバンと大きな音をたてて樹に当たった土の銃弾は土煙とともに樹の皮を削った。
ミリバや両親は驚いたが、オオカミたちを解体していた集落の人たちも解体をやめて集まってきた。オオカミの頭や身体にあいた穴と削られた樹の皮を見比べて、わいわいがやがや騒いでいるみんなを見て、ゴーンゾはちょっとだけ気持ちがよくなってきた。
『いろんな魔法が使えることはもう秘密にはしないで、みんなを守りながらお腹いっぱいケモノの肉が食べれるように頑張ろう!』と心に誓った。
『死んでしまった
『頭の中でイメージした魔法が使えるようになるということは、『集落のみんなも魔法を使えるようにすることができる魔法』が使えるようになるんじゃないか?』
ゴーンゾは集まってきた集落の人たちの中にいた火種係のおじいさんに走り寄ると言った。
「火を出す魔法を教えてもらったおかげで他の魔法も使えるようになりました。集落のみんなにも魔法が使えるように教えたいんですが、いいですか?」
おじいさんは『義理堅い子だな。そんなことワシにきかなくてもいいのに』と思ったが、ニッコリ笑って答えた。
「もちろんだ!、みんなにも教えて魔法が使えるようになってもらえ」
「わかりました、頑張ります」
鼻息を荒くして答えるとゴーンゾは集落のみんなにむかって大きな声で言った。
「僕が使えるようになった魔法をみんなにも教えたいんですが、やってみたい人はいますかー?」
ミリバがまっさきにやってきて「頼む!、オレに教えてくれ!!」とゴーンゾの肩をガッチリ掴んで言った。
それを見た集落の人たちがオレもオレもと寄ってきたので、ゴーンゾはますます嬉しくなって言った。
「わかりましたー!。みんなが魔法を使えるように、頑張って教えます!」
そのあと解体したオオカミの肉をみんなニコニコ顔でたらふく食べた。
その夜両親に魔法を使えるようになってもらおうと、『魔法が使えるように教える魔法』を強く頭の中でイメージしながら、両親のヘソのあたりに魔力を流してみたが、量が多くて顔をしかめ始めたので、できるだけ小さくして流してみた。今度はなんとなく変な顔をする程度だったのでそのまま続けたら、なんとなくモヤモヤとしたかたまりがあるみたいだと言い出したので「自分の手をヘソのあたりに当てて、ゆっくり息を吸ったりはいたりしてみて、それからお父さんは火をジーッと見ながら指先に火が出るように頭の中で念じて、お母さんは指先を水で濡らして同じように指先から水が出るように念じてみて」
創造神サリーエス様へのお礼の言葉はゴーンゾが替わりに唱えた。
「創造神サリーエス様の御業をこの者たちの手に」
父親に手をむけて「ファイヤ」、母親に手をむけて「ウォーター」と何度も繰り返した。
しばらくして父親の指先にマッチの火程度の大きさの火が出て、母親の指先からも水滴がしたたるようになった。
両親とゴーンゾは手を取り合って魔法が使えるようになったことを喜んだ。
両親は初めての魔法に魔力を使い切ったみたいでフラフラし始めたので、もう寝ることにした。
ゴーンゾは『魔法が使えるように教える魔法』がうまくいったことに興奮していたが、あらためて創造神サリーエス様への感謝の祈りを捧げた。
〚『人に魔法を教える魔法』とはいい魔法を思いついたね!。集落の人たちにもたくさん教えて上げなさい。それと今は無理かもしれないけれど、もっと多くの人が魔法を使えるように教える方法を考えなさい〛
ゴーンゾはもっと多くの人に教える方法とは………と考えた。
『そうか!、教科書を作ればいいんだ!!。でも紙とかペンがないんだよなぁ…。まぁいそがなくても考え方をまとめて覚えておいて、用意できたときに書き残せばいいか…』
これが初代サウスエンド辺境伯爵ゴーンゾ様が書き残された『鍛錬の書』が生まれるきっかけとなった。
翌日からはミリバや狩りの上手な男たちから魔法の使い方を教え始めた。
まずは身体の中にある魔力の感じ方を教えた。
ゴーンゾがヘソのあたりに手を当てて、ごくごく少量の魔力を流してみると、自分たちの身体の中に魔力のかたまりがあることがわかった男たちはニコニコしながらゴーンゾを教えを素直に聞いて、魔力を大きくする練習と小さな枝を燃やした火をジーッと見ながら自分の指先に火を出す練習や指先を濡らして水を出す練習もした。
もともとケモノを狩るのが一番上手なミリバが最初に指先から火を出せた。魔力があったけど、その使い方を知らなかったようだ。
母親も言っていたけれど、集落の人たちが暮らしていたガーシェ大帝国では、『魔法は貴族たちのもので平民には使えない』というのが常識だったが、実際にはお貴族様たちが平民を支配するためのウソだったようだ。実際に火種係のおじいさんが使えるようになったんだから、ちゃんと魔力や魔法を理解して練習すれば使えるようになるはずだと確信したゴーンゾは、みんなに魔力や魔法を教え続けた。
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