第10話 ゴーンゾの秘密③

 初代サウスエンド辺境伯ゴーンゾ様が書き残された『鍛錬の書』には魔力の感じ方や増やし方が詳しく書かれている。


『身分が平民であっても貴族であっても、創造神サリーエス様は平等に魔力を与えてくださっている。ただその量は個人によって多い少ないがあるのは神様の決めたことなのでしかたがないが、魔力を増やし使える魔法の威力を大きくするように努力することはやめてはならない。』


『魔力を感じるためには、まず静かに大きく呼吸をして、両手をヘソと胸のあいだに置き、身体の中になにかモヤモヤたものがないか探ってみること。モヤモヤしたものがよくわからない者は、空を見上げて雲を見ながら試してみろ。身体の中に【空に浮かぶ雲のようなモヤモヤとしたかたまりがある】と強く念じながら根気よく続けていたらなにかモヤモヤしたものがみつかるだろう』


『モヤモヤしたものがみつかったら、それを揉んだりひろげてみたりしてかたちを変えられるか試してみろ。土を少しぬらして団子を作り、それを揉んだりひろげてみたりかたちを変えてみながらやるのがわかりやすいだろう』


『そのモヤモヤしたものが【魔力】だから、それを感じられた者はかまどやロウソクの火をよく見て、眼を閉じても頭の中に火が燃えているのが浮かぶようになったら、【創造神サリーエス様の奇跡の御業をこの手に…ファイヤ】ととなえて指先に頭に浮かんでいる火が出るように強く念じなさい』


『指先を水で濡らして【ウォーター】、土に手をついて【ホール】【土壁ウォール】、身体が綺麗に爽やかになるように強く念じながら【清浄クリーン】、明るい日の光で部屋の中が照らされるように強く念じながら【ライト】と創造神様への感謝の気持ちをこめて唱えると、それらの魔法が使えるようになるかもしれないが、使えないからといってあきらめてはいけない、強く念じながら続けることが大切なのだ』


『鍛錬の書』には、努力を続けることが大切であると繰り返し書かれている。


『継続は力なり』


 初代様が残されたこの言葉は、力のある者はあるなりに、無い者は無いなりに心の支えとなっている。


 ーーーーーーーーーー


 集落の火種係のおじいさんから教えてもらって指先から火が出せるようになったゴーンゾは湖のそばでの魔法の練習に励んだ。


 ゴーンゾには人に言えない秘密がある。

 

 それはこの世界よりも遥かに科学技術の進んだ世界に暮らしていた記憶があることだ。


 理由は覚えていないが、その世界で死んで魂だけになり、この世界で死んでしまった少年ゴーンゾの身体にその魂が入れられたようだ。


 この世界をつかさどる創造神サリーエス様に魔法を使えるようにして加護をもらったのは覚えているのだが、その使い方までは覚えていない。だからおじいさんに教えてもらったやり方をひたすら練習しているが、繰り返しているうちに、創造神サリーエス様への感謝の言葉は無くても魔法が使えることに気がついた。


 頭の中で『こんなことができたら……、あんなことができたら』とイメージすると、そのイメージのままで実現するのだ。


 ゴーンゾには復讐したい相手がいる。


 フォレストボアだ。


 この世界に生まれ育った少年ゴーンゾはフォレストボアの牙に引っかけられて飛ばされて死んでしまった。


 その身体をもらってゴーンゾとしてこの世界で生きていくためには、仇討ちは何が何でもやらないと気がすまない。これはケジメだ。


 実際には少年ゴーンゾを殺したフォレストボアは集落の人たちに狩られて、その腹におさまってしまったのだが、ほうっておいても次のケモノが集落を襲ってくるのは間違いない。


 そのケモノたちはオレがぶち殺してやる!。


 それがオレのケジメだ。


 ゴーンゾはケモノたちをぶち殺すための魔法は何がいいのか考えた。すぐ思い浮かんだのはピストルやライフルの銃器だ。


 土で銃弾を作って飛ばせばケモノが見えた瞬間にぶっ放せば安全にれる。


 とりあえず記憶にある銃弾の形を頭に思い浮かべて土で作ってみたが、手に取るとボロボロと崩れてしまった。


 もっと硬くしないと使い物にはならないから、鋼鉄の硬さの銃弾をイメージしてみたらうまくできた。


 手のひらに乗せた銃弾をテレビで見たライフル射撃のイメージで湖の水面に飛ばしてみた。


 「パァーン」と言って水面に飛ばしてみたら、シューーンと風を切る音とともに水面に当たった銃弾はパンパンパンパンという音をたてて何度も水面をはねていった。


 湖のそばに生えている大人の胴体くらいの太さの樹に、さらに硬くなるように強くイメージした銃弾を当てて見たら、ズゴォォォーンという音とともにゴーンゾが通り抜けられるくらいの大きな穴が空いた。


 ヨシッ!、コレなられる!!と喜んだが、かなりデカい音がしたので、集落の人たちに気がつかれないように、そーっと家に帰った。


 その日は寝るまでニマニマが止まらなかったので、両親に「ずいぶんご機嫌がイイみたいだけど、どうしたの?」ときかれてしまった。


「う〜〜ん。あっそうそう、フォレストボアに飛ばされて身体のあちこちが痛かったんだけど、もうすっかり良くなったから…だからかな…」


 ゴーンゾがとぼけて答えると、両親はそれは良かったねと頭を撫でてくれた。


 寝る前に魔法が使えるようにして加護を与えてくれた創造神サリーエス様に心からの感謝の気持ちを込めて祈りを捧げていると〘もっとたくさん練習すると、いろいろな魔法が使えるようになるから頑張りなさい〙と、どこからか声が聴こえてきた。近くには両親しかいない。


 創造神サリーエス様は見ていてくれるんだ。


 よーし明日も魔法の練習を頑張るぞー!と思いながら眠りについた。


 翌日からは畑の手伝いをしながら『柔らかくなーれ、たくさん収穫できるようになーれ』と念じながら畑の土に魔力を流したり、湖に水を汲みに行って誰も見ていないか確かめてから『美味しい水が出ろー』と念じながら手から桶にドボドボ水を出した。


 樹に空けた穴を狙って硬い土の銃弾を飛ばす練習もした。


 できるかな?と思って念じて作った水の銃弾や氷の銃弾も土の銃弾と同じように飛ばせるようになった。樹に当てるとまた大きな音がするので、右手をピストルに見立てて、親指を立てて人差し指を穴の真ん中に向けて残りの指を握りしめ、打つ瞬間は息を止めて慎重に狙いをさだめて何発も打った。


 左手でもやってうまく当たるようになった。料理に使う薪の中からT字型の枝を手に入れてからは、それをピストルのつもりで左右の手に握って練習もした。


 T字型の枝はそののち長くなりピストルからライフルのような形になり、見栄えのいい樹を使って金属や宝石で装飾されたものに替えられていったが、ゴーンゾの生涯を通じての『魔法を発動するための武具』として常に携帯されるようになった。


 魔法を使うのがますます楽しくなったゴーンゾは、強い威力の出せる魔法を使えるようになったことをいつまでも秘密にはできないので、両親や集落の人たちにどうやって打ち明けるか悩むようになった。


 ゴーンゾの使える魔法の威力を両親や集落の人たちが知る日は突然やってきた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る