第8話 ゴーンゾの秘密

 ミズキが産まれたサロガ村は、アリダ大陸南東に位置するミリバ王国のサウスエンド辺境伯領にあり、西隣りのローダイ王国とのあいだにひろがる広大な〚魔物の森〛に近い開拓村だ。


 サロガ村は半農半狩猟の村で、村民全員が必ず何かしらの武器を持って戦えるように訓練されている。これは〚魔物の森〛から魔物が溢れてくるスタンピードが三十〜四十年ごとに繰り返されているのと、ローダイ王国からの侵略に備えたものだ。守備隊もいるが大量の魔物には『数の暴力』で負けてしまうので、いざというときには『村民皆兵』でのぞまないといけないという初代サウスエンド辺境伯様の掟に従ったものだ。

 剣や槍・弓はもちろんだが、斧やくわかまやナベにフライパンといった農機具や生活用品も投げつけたり振りまわしたりして魔物を撃退する訓練をする。もちろん村民一人だけで魔物に立ち向かうのは酷な話なので、必ず三〜五人で正面や左右後方から取り囲んでめったやたらに袋だたきにして、魔物を弱らせてから、トドメは剣や槍で仕留めることが多いが、農機具の中で重宝されるのが『剣スコ(剣先スコップ)』だ。初代様が考案して広めたと言われている剣スコは、普段は畑のウネをつくったり、邪魔な木の根や土に埋まった岩を掘り返すのに使うが、魔物に襲われたときには剣先でついたり、喉や関節を切り裂いたり、広い面を盾のように魔物に向けて牙や爪で切り裂かれるのを防いだり、そのままぶん殴ったりできるすぐれものだ。普段の農作業中も畑に出てきたモール(モグラ)やホーンラビットやヘビの頭を叩き潰して剣スコで軽く穴を掘ってから、土に突き刺した剣スコの丸く輪になった持ち手に獲物をロープで縛りつけで解体し、内蔵や血は穴の中に、皮や肉に魔石は背中に背負ったズダ袋に入れて、穴を埋めたら農作業を再開できる。血で汚れたスコップも農作業を続けているうちに土に混じってきれいにとれるし、後で水洗いをしておけばいいだけだ。朝のうちに獲物がたっぷり取れたときには、近くにいる農民仲間で分けて休憩中に軽く肉をあぶって食べるし、昼過ぎなら家に持ち帰る。夕食のおかずが増えて家族もニコニコだ。皮や魔石はまとめて売れば、現金収入にもなる。

 辺境の村に暮らす人々には魔物は厄介ものであり、おかずでもあり、現金収入の元でもある。食べきれない肉は塩をまぶして干し肉にすれば日もちのする保存食になる。だから、より安全確実に魔物を仕留められるように守備隊員が指導してくれる戦闘訓練には老若男女を問わず農作業の合間をみて農民仲間で作業を分担して交代で参加することにしている。楽をして生きたいナマケモノは村では生活できなくなり、出ていかざるをおえないし、血が苦手で生き物を殺すことに抵抗のあるものは、物資や獲物の搬送や怪我人の介護などの後方支援を頑張ることで貢献する。


 火・水・風・土や雷・氷などの魔法のスキルを授かったものは、魔力を増やし命中率を上げる訓練に力を入れる。初代様が書き残した『鍛錬の書』には魔力溜まりからの魔力循環や魔力増加の手順に命中率を上げる的の狙い方まで詳しく説明されているので、スキルを授かったものはそれをよく読んでそのとおりにやれば、魔力の多いものは多いなりに、少ないものも少ないものなりに魔法を使えるようになる。『鍛錬の書』には、「魔物の急所を攻めること」に重点をおいて書いてあり、それは正面からは目・鼻・口の顔面を狙い、側面からは耳や首に手足の関節、後方からはケツの穴やタマ○ンを狙い、魔物の戦闘意欲をそいで、武器による攻撃を補助するのと、スキあらば致命傷をあたえて仕留めろと指導されている。威力のある魔法を打てる者はボール系やバレット・アロー系を顔面にぶち込んで倒すし、威力の足りない者は鼻や耳やケツの穴をしつこく狙ってヘイトを集めて、武器による攻撃がしやすくする。

『鍛錬の書』には「魔法に優れたものは魔法を、武に優れたものは武を、どちらも使えぬものは知識を身につけ知恵をしぼり、皆のものが力を合わせて事にあたれ」「力が優れたものがおごり高ぶり他者を見下すことは愚か者のなす事と心得よ」と書いてあり、サウスエンド辺境伯領のみならず、ミリバ王国の国是として定められている。


 約二百年前にサウスエンド辺境伯領はもちろんのこと、ミリバ王国の成立と安定に大きな働きがあり、『鍛錬の書』を書き残した『偉大なる初代様』『ゴーンゾ・トリ(辺境伯)・サウスエンド』は実に不思議な言い伝えの残る人物であった。

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