第4話 オトナの事情

 ★文中に登場する団体名・グループ名・企業名・個人名はフィクション(想像の産物)ですので、実在するものではありません。



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 チョコクリーム関西事務所のオーディションに合格したのは小学1年から4年生までの女の子10人だった。約半年の基礎レッスンを終えて5〜6人に絞ってアイドルグループを結成させる予定だが、メンバーの固定は実際に客前でパフォーマンスをさせてみてから決めることにした。


 毎週日曜日に事務所の会議室を使って、歩き姿や立ち姿の矯正にダンス・滑舌・歌唱のレッスンをした。


 バレエ教室でのレッスンで踊ることには慣れているカオルだが、滑舌や歌唱レッスンは苦手だった。


 何度もダメ出しをされて落ち込んで帰宅した娘を連れて母親とカラオケボックスで歌うのが平日放課後の習慣になり、寝る前に早口言葉を小声でブツブツと繰り返すようにもなった。


 事務所でのレッスンが3ヶ月を過ぎる頃にデビュー曲が2曲決まり、その曲に合わせて振り付けとメンバーごとに歌う歌詞を割り振って実践的なパフォーマンスのレッスンも始まった。



 ちなみにこの2曲は他の地方事務所でレッスンをしているアイドルグループ候補生たちも練習していて、同時にお披露目することになっている。


 いずれは合同で事務所主催のライブも企画する予定で、札幌・仙台・東京・大阪・福岡の地方事務所主催での遠征ライブも計画されているらしい。


 事務所の方針としては、地方で人気が出てアイドルグループ単体で収益が上がれば良し、客前でパフォーマンスをさせて個別に人気が出てモデルや俳優になっても良し、さらにそのアイドルグループの活動を通じて事務所の知名度が上がり、地方に暮らすモデル・俳優志望の子供たち……いわゆる『金の卵』……が集まればさらに良しといったオトナの事情があり、しばらくは先行投資として採算がとれなくても問題無しとしている。


 同期生10人のうち2人は「レッスンについていかれへんし、モデルさんも俳優さんも思てたんとは違うてしんどそうや」と事務所を辞めてしまい、残りの同期生全員で応募した関西のテレビ局が制作するドラマのオーディションに合格した2人は「俳優活動に専念したい」という本人と親の希望からアイドルグループには参加しないことになった。


 本業の俳優活動で稼げるなら文句はないので、事務所はそれを承認して、残りの6人でアイドルグループ「チョコメロン」は活動を始めた。


 メンバーそれぞれの実名よりも、覚えてもらいやすいニックネームをアイドル名にすることになり、それぞれにイメージカラーを持つことにもなり、カオルはアイドル名を「カオリン」にした。


 メンバーで相談した結果「ピンクのカオリン」「ブルーのリンちゃん」「グリーンのアーヤン」「レッドのミータン」「パープルのカエカエ」「オレンジのスミポン」に決めた。


 デビュー当日は大手モデル・俳優事務所がアイドルグループを始めたというニュースがテレビのワイドショーやスポーツ新聞の芸能欄にチラッと載ったりしたが、いかんせん素人に毛が生えたメンバーとアイドルグループとしての実績の無さから、たいした話題にはならなかった。


 ライブ会場もせいぜい50人程度のキャパしか無いような薄暗い地下のライブハウスがほとんどで、そこは薄暗いフロアにタバコとアルコールとそこに集まったオタクの酸っぱい汗とウェットティッシュの柑橘系の匂いがドヨーンと混ざった場所だった。



 カオルはそこでアイドル名[カオリン]としてアイドル活動を続けた。





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