第3話 事務所オーディション

 ★文中に登場する企業名・グループ名はフィクション(想像の産物)ですので、実在するものではありません。


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 全国展開している老舗のモデル・俳優事務所[チョコクリーム]のオーディション当日、カオルはウキウキ気分で母親と自宅を出た。


 書類選考通過後に届いた二次選考の通知には、何かしら特技を披露してほしいと書いてあり、バレエを踊ることにしたので、スカートの下にはスパッツを履いて、選考前に履き替える用のトウシューズも用意してある。


 二次選考会場には同じ年頃の子どもたちとその親たちが40〜50人くらい集まっていた。


 集まっている親たちの会話をなんとなく聞いていると、「テレビに出れるんかいな?」とか「A○BやNM○みたいに有名になれるのかしらん」とか言っている。


 秋葉原から始まったグループ名に数字のついたアイドルグループが名古屋や福岡・大阪でも活動をしていて、もともと子供を芸能活動させようという「意識の高い親たち」は「ウチの子もイケるんちゃうか」とノリノリのようだった。



 二次選考が始まり、5人づつのグループに別れて、台本の朗読やカメラテスト・立ち姿や歩き姿のチェックをされて、自己アピールをした。


 アカペラで歌う子や即興で寸劇をする子・その場でいきなり泣いたり大爆笑して演技力をアピールする子もいた。


 カオルはトウシューズを履き、二次選考会場を大きく使って、今まで練習してきたバレエの振り付けをアレンジしたジャンプやターンを披露して、最後はアラベスクのポーズでビシッと決めた。

 ええ感じで終わってニッコリ微笑むと、審査員の何人かが静かに頷いてくれた。


 最終選考は母親も同席しての役員面接だった。


 何かをテストするというよりは、モデルや俳優になるのは簡単ではなく、基礎的なレッスンを積み重ねないといけないとかすぐに収入があるわけでもなく、むしろレッスン代金や交通費がかかることなど必要経費についてを詳しく説明された。


 おそらくそういう話を聞いた親や子どもの反応を見ていたようで、あからさまに不満を漏らしたり、拒否したりする親もいた。


 カオルの母親は「娘がやりたいと言っているし、校外のクラブ活動的に考えているので、いきなり収入がなくても、多少の必要経費がかかるのも、しかたがないこと」と答えて、穏やかに面接を終わらせた。



 数日後に採用通知が届いて、事務所で契約書を交わし、カオルのモデル・俳優・アイドルの卵としての生活が始まった。

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