第9話
捜査が進む中、私たちは博多の街並みを歩きながら証拠を追っていた。叔父の三田村幸一探偵の鋭い眼差しは、一つ一つの手がかりを見逃すことなく捉えていた。白珠堂の事件は謎に包まれていたが、確かな前進を感じていた。
ある日、私たちのもとに新たな情報がもたらされた。それは、事件当夜に白珠堂の前で目撃された黒い車両についてだった。目撃情報によれば、その車両が博多港近くで見つかったという。
「博多港近くで見つかった黒い車両が犯人の逃走に使用された可能性が高いですね。」叔父はそう言いながら、私を連れて博多港へと向かった。
博多港は昼間の喧騒が少し和らぎ、夕暮れに差し掛かっていた。私たちは情報提供者の案内で、その車両が発見された場所へと向かった。そこには、黒いセダンがひっそりと停まっていた。
「この車両ですね。」叔父は車両を注意深く調査し始めた。
車の内部を調べると、ダッシュボードの中に一枚の古びた地図が隠されているのを発見した。その地図は、博多の地下道を詳細に示していた。
「これは…古い地図のようですが、地下道の詳細が描かれています。」私は驚きの声を上げた。
「犯人がこの地下道を利用して逃走した可能性がありますね。」叔父は地図を広げ、細かく確認し始めた。
地図には、博多港から始まり、市内各所に通じる複雑な地下道が描かれていた。その中でも特に目を引いたのは、地下道の一部が赤いインクでマーキングされている箇所だった。
「この赤いマーキングの部分に何かが隠されているのかもしれません。」叔父はそう言いながら、地図を折りたたんでポケットにしまった。
私たちはすぐに地図の示す地下道の入り口を探すことにした。博多港近くの古びた倉庫の裏手に、その入り口は隠されるように存在していた。錆びついた鉄扉を開けると、薄暗い地下道が広がっていた。
「ここから入ってみましょう。」叔父は懐中電灯を手に取り、地下道に足を踏み入れた。
地下道の中はひんやりとした空気が漂い、足音が反響していた。私たちは慎重に進みながら、地図に示された道をたどっていった。道中には古い壁画や朽ちた装飾が見られ、この地下道が何世代にもわたり使われてきたことを感じさせた。
「犯人はこの道を利用して逃げたのでしょうか…」私は小さな声で呟いた。
「その可能性は高いです。この地下道は非常に複雑ですから、追跡者を巻くのに適している。」叔父は前を見据えながら答えた。
しばらく進むと、赤いインクでマーキングされた地点に到達した。そこには古びた扉があり、鍵がかかっていた。しかし、鍵穴には細工が施されており、簡単に開けられるようになっていた。
「この扉の向こうに何かがあるようです。」叔父は慎重に扉を開けた。
扉の向こうには小さな部屋があり、中には古びた家具や雑多な物が散乱していた。その中でひときわ目を引いたのは、一冊の古い日記だった。叔父はその日記を手に取り、ページをめくり始めた。
「この日記には…事件に関する手がかりが書かれているかもしれません。」叔父の声は静かだったが、その目には鋭い光が宿っていた。
日記を読み進めると、犯人の計画や逃走経路について詳細に記されている部分があった。しかし、日記の最後のページには、「逃亡先」の文字と共に、さらに詳しい地図が描かれていた。
「犯人はこの場所を利用して、さらに奥へ逃げているようです。」叔父は地図を再び広げ、次の目的地を確認した。
しかし、その時、不意に背後から物音がした。私たちは振り返り、薄暗い地下道の奥に人影を見た。
「誰かがいる!」私は叫んだ。
その人影は一瞬立ち止まったが、すぐに走り去っていった。私たちは急いで追いかけたが、地下道は複雑に入り組んでおり、犯人を見失ってしまった。
「逃げられましたね…」叔父は悔しそうに言った。
私たちはその場で立ち尽くし、再び地図を見つめた。犯人は巧妙に逃げていたが、まだ全ての手がかりを失ったわけではなかった。
「この地下道にはまだ秘密があるようです。続けて調査しましょう。」叔父の決意は揺るがなかった。
こうして、私たちの捜査は続けられることになった。博多の街並みの地下に隠された秘密と共に、犯人の影を追い続ける決意を新たにした。
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