第2話

秋の風が博多駅のホームを冷たく吹き抜ける中、豪華観光列車「オーシャンビューエクスプレス」は出発を待ち構えていた。列車が静かに走り出して間もなく、車内の華やかな雰囲気は突如として緊張感に包まれた。松田義雄の突然の倒れ込みが、乗客たちに恐怖をもたらしたのだ。


その知らせが博多駅に届くと、待機していた三田村幸一探偵が静かに動き出した。列車が停車するまでのわずかな時間、叔父の目は鋭く光り、冷静な判断が彼の表情に浮かんでいた。彼は数十年の経験からくる確信を持ち、次の瞬間には列車に乗り込んでいた。


列車内に足を踏み入れると、彼の存在が周囲の空気を一変させた。落ち着き払った態度と鋭い目つきが、ただならぬ事件の到来を予感させた。私はその後を追い、叔父の一挙手一投足を見逃すまいと心に誓った。


三田村はまず、事件現場である松田の個室に向かった。豪華な内装が施された個室の中で、彼の鋭い目が隅々までを見渡した。床に転がるグラス、倒れた椅子、そして未だ冷たいままのカクテル。全ての物が語る真実を、彼は一つ一つ拾い上げるように見つめていた。


「このグラス、何か違和感を感じる。香織、これを検証しよう。」叔父は静かに言いながら、グラスを手に取りました。私は彼の指示に従い、グラスを丁寧に扱った。


次に彼は、列車内の乗客と乗務員にインタビューを行った。ラウンジに集まった人々の顔には不安が浮かんでいたが、三田村の落ち着いた態度が彼らの心を少しずつ解きほぐしていった。


「事件が発生した時刻、皆さんはどこにいらっしゃいましたか?」彼の穏やかな声が、乗客たちの心を和らげつつも、真実を引き出す力を持っていた。


乗客の一人が口を開く。「私はその時、ラウンジで友人と話をしていました。突然の騒ぎで驚きましたが、何が起きたのかは分かりません。」


「ありがとう。その時のことをもう少し詳しく教えていただけますか?」叔父は微笑みながら、さらなる情報を引き出そうとした。


乗務員たちも彼の質問に丁寧に答えた。「私はキッチンでカクテルを作っていましたが、松田さんの個室に誰が入ったのかは見ていません。ただ、少し前に高橋さんがキッチンに立ち寄ったのを覚えています。」


高橋信也の名前が出た瞬間、叔父の目が一瞬鋭く光った。彼はすぐに高橋の居場所を確認し、再度質問を重ねることにした。


列車は静かに揺れながら美しい海岸線を進んでいたが、その中で繰り広げられる捜査は、一瞬の油断も許されない緊張感に満ちていた。三田村幸一探偵の冷静な捜査と、鋭い洞察力が、次第に事件の真相を浮かび上がらせていくのだった。

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