港町探偵 三田村幸一の事件簿

@minatomachi

第1話

秋の冷たい風が博多駅のホームに吹き抜け、列車の発車を告げるベルが静かに響いていた。その日、私は叔父の三田村幸一探偵と共に、豪華観光列車「オーシャンビューエクスプレス」に乗り込むことになっていた。この列車は、美しい海岸線を走り抜ける贅沢な旅を提供し、多くの富裕層や著名人たちが乗車していた。


列車がゆっくりと動き出し、博多の喧騒を離れ、静かな旅路へと進む中、車内には和やかな空気が流れていた。華やかなシャンデリアが揺れ、エレガントな音楽が響き渡るラウンジには、乗客たちの楽しげな声が交じり合っていた。


その中には、ビジネスパートナーとして知られる松田義雄と高橋信也の姿もあった。彼らは成功した実業家としての風格を漂わせながら、互いに笑顔を交わし、親しげな会話を楽しんでいた。だが、その笑顔の裏に、誰も知らない深い闇が潜んでいることに気づく者はいなかった。


列車が滑らかに走り出し、美しい海岸線が車窓から見える頃、悲劇は静かに幕を開けた。松田は個室に戻り、一息つこうとしていた。彼の前には、高橋が心を込めて作ったとされる特製カクテルが置かれていた。輝くガラスのグラスに注がれた琥珀色の液体は、見た目にも美しく、松田の心を和ませるはずだった。


松田はグラスを手に取り、カクテルの香りを楽しみながら、一口含んだ。だが、次の瞬間、彼の表情は一変した。苦痛に歪む顔、咳き込み、床に崩れ落ちる音が、個室の静寂を引き裂いた。彼の意識は次第に薄れ、やがて完全に途絶えた。


列車内は一瞬にして混乱に包まれた。乗客たちの不安な声が響き渡り、乗務員たちは緊急対応に追われた。豪華な旅路が一転して、緊張感に満ちた舞台へと変わり果てた。


私は、叔父の三田村幸一探偵と共に、事件現場へと急いだ。叔父の冷静な瞳が現場を鋭く見渡し、私たちの心には彼の決意と洞察力が確かに感じられた。「真実は、いつも一歩先にある。」叔父の言葉が私の心に響き、私たちはこの悲劇の真相を解明するために動き出した。


高橋信也は冷静を装いながらも、その目には隠しきれない動揺が見え隠れしていた。私たちが彼に質問を投げかけるたびに、彼の口調はどこかぎこちなく、彼の心の奥底にある闇が垣間見えた。


美しい海岸線を走る豪華観光列車の中で、私たちの調査は始まった。乗客たちの楽しげな笑い声の背後で、暗い真実が静かに明らかにされようとしていた。私の心には、叔父の言葉と共に、この旅路の先にある真実への期待と緊張が高まっていた。

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