第43話

 数時間後、リン達はラミノがあった地へとたどり着いた。街の景色や住民の気配すらないその寂しげな光景にアイリーンが哀しげな顔をする中、リンは夜行の書を取り出し、黒龍親子のページに触れた。



「さあて、出番だぜ。お前さん達」



 その声と同時に夜行の書からは黒龍親子が現れ、母龍は辺りを見回した。



「なんだか寂しげなところですね。リンさん、私達に何かご用事ですか?」

「ああ。ここに土龍のランドルフという黒龍がラミノという街の住民達と一緒にいるはずなんだが、お前さんはその名前に聞き覚えはねぇかぃ?」

「ランドルフ……はい、もちろんです。土龍のランドルフさんは私が恋慕う方で、この子の父親ですから」



 母龍が哀しげに言う中、子龍はリンを不思議そうに見上げた。



「ぼくのおとーさんがここにいるの?」

「そうだぜ、ボウズ。だが、他の四天王と同じでここだがこことは違うとこに閉じ込められてるんだ」

「ここだけどここじゃない? うー……なんか頭がぐるぐるだよー……」



 子龍が頭を抱えながら唸る中、アイリーンは微笑みながら子龍の頭を撫でた。



「正直私達も同じような物ですからそれで良いのですよ。そういえば、あなたの名前はないと聞きましたが、今もそうなのですか?」

「はい。リンさんが私やこの子の名付けをしようかとは仰ってくださいましたが、ランドルフ様が正式に夫婦になった際に私に、この子が生まれた時にこの子に名前をつけたいと仰ってくださったので断ったんです」

「因みに、仮の名前はあるみてぇで、母親がクレア、子供につける予定だったのがアーサーみてぇだ。だから、俺達もそう呼んでる」

「クレアとアーサーね。それにしても、ここに閉じ込められてる連中の出現条件って何なのかしらね? 私の時もアーヴィングの時も特別な事はしてないんでしょ?」

「ああ、してねぇ。だが、たぶん何もしなくて良いんだと思うぜ?」

「む、どういう事だ?」



 アーヴィングが首を傾げると、リンは辺りを見回した。



「考えられるのは何らかの力に反応して違う次元に閉じ込められてる奴らが視認出来るようにな事だ。その何かというのはおおよそ魔力だろうけどな」

「ですが、マリア様の時はリンと風一郎様のみでした。あなたも妖力とやらは持っているようですが、魔力は持っていないでしょう?」

「だが、近くにはお前さんやオーマがいた。その魔力に反応したと考えれば不自然ではねぇだろ?」

「それはたしかに……」

「それに、俺は魔力は持っていないが、クレアとアーサーは持ってる。夜行の書は常に力を発しているから、出した際にクレア達の魔力が漏れたとすれば違和感はねぇ。本当なら黒幕に色々聞きてぇが……今はいねぇしな。答え合わせは後回しにしようぜ」

「そうね。さて、アーヴィングの時はそろそろ出てきたはずだけど……」



 マリアが辺りを見回していたその時、蜃気楼のようにラミノの街が現れ始め、それと同時に住民や巨大な黒龍が姿を現した。



『む……これはいったい……?』

「よう、ランドルフ。懐かしい顔を連れて来てやったぜ?」

『懐かしい顔……』



 マリアとアーヴィングを見た後、クレアとアーサーを見たランドルフは驚いた。



『クレア……そしてその子龍はもしや……』

「そうです、ランドルフ様。私とあなたの子、アーサーです」



 ランドルフとの再会にクレアは目から涙を流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る