第42話

「ほう、あのバカ王子がねぇ」



 イアリ共和国の首相官邸の応接室でリンはニヤリと笑う。アイリーンとリン、マリアとアーヴィングが並んで座り、オーマが壁際に立つ中、リン達の向かいに座ったバルドは静かに頷く。



「そうだ。何をしたかはわからないが、だいぶ根に持たれているようだ」

「おれぁ部屋に行ってアイリーンやリギス王国に何かしようもんなら容赦はしねぇと言っただけだぜ? そしたらアイツが勝手に漏らしやがった。それだけだ」

「それだけでも彼にとっては恥ずべき事であったわけですわ。まあまだ七つの子供だった頃から体格も人数にも差があった冒険者パーティーに対して一度も攻撃を受けず且つ攻撃を当てずに勝利してみせたあの実力を見ても何かされると思わなかったのは愚かと言わざるをえませんが」

「それから十年近く経ってたらより強くなるのはわかるはずなのにね。この先も関わる気もないけど、スラン帝国の今後がとても不安になるわ」

「はっはっは! まったくだな! ルエル様でもスラン帝国は手中におさめる必要はないと仰るような気がするぞ」

「魔王でなくてもそうだろうな」



 リン達一行の言葉にバルドは苦笑いを浮かべる。



「同感だが、ここまで言われていると哀れに思えてくるな。さて、貴殿らの用件だが、このイアリ共和国でも起きている消失現象の解決だったか?」

「そうだ。おれたちゃあ世界各地の歪みを正しながら魔王の四天王や魔王そのものを探し、この世界を嗤ってやるのが目的なんだ。んで、ここにも四天王の一人である土龍のランドルフが来てるってアーヴィング達から聞いたから来たんだ。そしたらお前さんがこのマローの入り口にいて声をかけられてここまで連れられてきたってわけだな」

「土龍のランドルフ……黒龍でありながら人語を解するほどの知能を持ち、土の魔術にも秀でる上に飛行能力や口から吐き出される灼熱の炎は骨まで溶かすと言われているな。だが、土龍のランドルフを見たという話は聞いたことがない。いつ土龍のランドルフがこのイアリ共和国に来たのだ?」

「私達と同時期だから二十年近く前よ。それでいると思われるのはラミノという街」



 バルドは納得顔で頷く。



「ラミノか……そこがちょうど消失現象に巻き込まれた街だ。そこに土龍のランドルフが向かったが、住民達と同様に消失現象に巻き込まれたというのなら話を聞いた事がないのも納得だな」

「因みになんだが、四天王から見て土龍のランドルフはどんな奴なんだぃ?」

「結構豪快な奴よ。配下も同じドラゴンやリザードマンが多いけど、私達の配下達からも慕われてたし、特に風の四天王とは仲がよくて頭の上に乗せて一緒に飛んでる事もあったわ」

「それと恋仲の黒龍がいるという話も聞いたことがあるな! 名も家族もない黒龍だそうだが、配下達はよくその黒龍の話を聞かされていたそうだ!」

「リン、その黒龍というのはやはり……」



 アイリーンの言葉にリンは頷く。



「だろうな。よし、早速行ってみようぜ。ランドルフがいるかいないかはわからないが、ラミノを救わないといけないのは変わらないからな」

「そうですわね。バルド様、お話を聞かせていただきありがとうございます」

「どういたしまして。貴殿らの噂は聞いていたからな。あの世間知らずの若者に与するくらいなら貴殿らに力を貸した方が良い。今後はリギス王国とより良い関係を築いていきたいものだな」

「私達もですわ。それでは失礼いたします」

「ああ、気をつけていってきてくれたまえ」



 バルドに見送られながら応接室を出ると、リン達はラミノに向かうために官邸を出発した。

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