第五章 イアリ共和国

第41話

 イアリ共和国、そこは名高い芸術品が多くある海岸線沿いの国であり、古代の遺跡などでも知られていた。


 そんなイアリ共和国の首都であるマローの中心に位置する巨大闘技場には二人の人物の姿があった。



「ほう、リギス王国に攻めるための手助けをしてほしいと」

「そうだ。リギス王国の第二王女のアイリーン・オールブライトがロドンという村の出身のリンという男と結託して僕様に恥をかかせたんだ。婚約者だったこのアラン・バーレイにだぞ?」

「なるほどなるほど。愛していた女性の前で恥をかかされ、その上で別れを告げられたとなればお怒りも納得ですな」

「そうだろう。だから、隣国であるこのイアリ共和国にわざわざ来てやったんだ。今後もウチの国と友好的でいたいなら力を貸せ。イアリ共和国の首相、バルド・カンナヴァーロ」

「……因みに、お父様にご相談は?」



 バルドからの問いかけにアランは首を横に振る。



「父上はダメだ。アイリーンが悪いのに婚約破棄の件も僕様が悪いと言い、今回の件も自業自得だと言ってリギス王国に対して何かをしようともしない。父上はきっと臆病者なのだ。だから、リギス王国から報復を受けると考えて何も出来ないんだ。あんな小国、何が出来るわけでもないのに」

「まあその婚約もリギス王国とスラン帝国の国交のための物でしたからな。リギス王国の力が多少弱くなっている中でスラン帝国が軍事力を提供し、リギス王国はいざという時には国民を兵士として提供する為のものだったと聞いています」

「その通りだ。と言っても、リギス王国の民なんて大した事はない。ウチの国の軍事力に比べたら赤子のような物で、いつか僕様がリギス王国すらもスラン帝国の物とし、他の国々だって手中におさめる。その際はこのイアリ共和国にも多少土地を分けてやるつもりだ。感謝するんだな」

「ええ、もちろん。とりあえずお話はわかりました。リギス王国に対して攻めいる時は私共もお力添えを致しましょう」

「ああ。では、僕様はそろそろ帰る。約束を決して違えるなよ?」

「はい」



 アランが上機嫌で闘技場を出ていくと、バルドは大きくため息をついた。



「ようやくいなくなったか。まったく……世間知らずもここまで来るとただの愚か者だな。近隣諸国について学ぶ気もなければ、己こそが真の君主だと言わんばかりに態度も大きく、無礼という言葉すら知らなそうだ。スラン帝国も第一王子はまともなのにどうしてその弟はあそこまで甘ったれた男に育ててしまったのだろうな」



 バルドは首を横に振ると、空を静かに見上げた。



「我らはそれどころではないというのに。多くの国で発生している消失現象で頭を悩ませている中であのような態度を取られるのは本当に腹立たしい。風の噂ではそのアイリーン王女が消失現象を解決し始めているそうだから、もしそれが本当ならばスラン帝国との国交など絶って、リギス王国と手を組んだ方が良いだろうな」



 バルドは視線を落とすと、そのまま闘技場の出口を見た。



「さて、私もそろそろ戻るとしよう。会議の時間が迫っているからな」



 バルドは独り言ちると、そのまま闘技場を去っていった。

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