第39話

「さーて、宴もたけなわだが、そろそろお開きかねぇ」



 深夜、賑やかだった街中も静まり返る中、リンは辺りを見回しながら呟く。リンや酒呑童子、アーヴィングやオーマ以外の全員がすっかり眠ってしまい、マリアはそれぞれ愛する相手の膝で眠るアイリーンとアレクシアを見ながらクスクス笑った。



「可愛らしい寝顔ね。二人とも安心出来る相手だからか寝顔も穏やかだし、このまま寝させてあげたいけど、体も余計疲れちゃうから早くベッドの上まで運んであげましょ」

「そうだな。酒呑童子、オーマ、マリア、お前さん達でこの辺りを簡単に片付けながら住民達も拾ってってくれるか?」

「おう、良い酒を飲めたからな。そのくらいはやって当然だ」

「仕方あるまい」

「二人もその子達の事は任せたわよ」

「あいよ。んじゃ行こうぜ、アーヴィング」

「ああ」



 二人はそれぞれ愛する相手を背負うと、酒呑童子達が片付けを始める中でゆっくりと夜道を歩き始めた。



「実に良い夜だねぇ。アイリーン達をベッドに寝かせたら月見酒でもしてぇくらいにお月さんも綺麗なもんだ」

「月を肴に飲むのか?」

「おうよ。俺がいたところでは花や月みてぇなものを見ながら飲むってのは珍しくねぇのさ。もっとも、花より団子なんて言葉もあるくれぇだから、最終的には花を愛でるんじゃなく腹を撫でる事になるんだけどな。かっかっか!」

「それはそれで楽しそうだな。ルエル様が戻られたらその時には一緒に月を愛でながら酒を酌み交わしてみるか」

「良いんじゃねぇか? そんときゃあ俺や他の百鬼夜行も呼んで大宴会にするか」

「そうだな」



 二人は笑いながら歩いていたが、アーヴィングはふと表情を暗くした。



「……俺やマリアは二十年近くもああやってこことは違う場所に閉じ込められ、その間もルエル様はお一人で頑張っておられたんだよな」

「そういう事になるな。ルエルからすれば配下も居場所も失って心もプライドも傷つけられたんだろうさ。勇者だかもいた中でな」

「勇者……そういえば、勇者はどうなったんだろうな。まさかとは思うが、勇者も消失現象に巻き込まれてるんじゃ……」

「なくはねぇな。こんな状況だしな」

「そうか……」

「まあ勇者も巻き込まれてるんなら勇者も助けてやるさ。そして百鬼夜行の一員にする。そうすりゃもっと賑やかになっからな」



 楽しそうに言うリンを見ながらアーヴィングは笑みを浮かべる。



「そうだな。世界がこんな事になっているなら、争いあっている場合でもない。今はとりあえず勇者とも手を取り合ってこの現状と向き合おう」

「おうよ。さて、そろそろアレクシアの家に着くぜ」



 一軒の豪邸の前に立つと、二人は足を止めた。



「さて、コイツらをさっさと寝かせて俺達も片付けに戻るか。アーヴィング、改めてこれからよろしくな」

「こちらこそよろしく頼む、リン。炎の四天王としてこの力を存分に振るおう」

「頼りにしてるぜ。んじゃあ、行こうぜ」

「ああ」



 二人は笑いあった後、静かに開いた門をくぐって中へと入っていった。

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