第38話
夜、ルベリは住民達の声や楽器の演奏などで賑やかだった。消滅していた街や人々が戻ってきた事による歓喜の声や音楽の中心にリンやアーヴィング達がおり、アーヴィングの隣には巨大な杯を手に持った酒呑童子の姿もあった。
「はっはっは! アーヴィングと言ったか、お前の飲みっぷりも大したもんだな!」
「お前も良い飲みっぷりだ、酒呑童子! だが、このまま俺について来られるか?」
「無論だ。名に酒呑とつく俺が呑みの勝負で負けるわけにはいかないからな。お前こそ呂律が回らなくなったり管を巻いて他人に迷惑をかけたりする前に降参しても良いのだぞ?」
「何を言う。俺は大酒飲みだが、これでも節度は守っているんだ。他人に迷惑をかけるなど酒飲み失格じゃないか!」
「がっはっは! ちげぇねぇ!」
アーヴィングと酒呑童子が意気投合し、アーヴィングの事をアレクシアが応援する中、それを見ていたリンは楽しそうにニッと笑った。
「やっぱ気が合うみてぇだな、アイツらは」
「お酒好き同士で力自慢同士、性格もどこか似ているとなればそうなりますわね。火鼠さんも本当にありがとうございました」
「そんなに活躍はしてないけどね。良い火浴びをさせてもらっただけみたいなもんだし」
「火が好きな妖怪ともなれば、炎の結界すらもそういうものになるのね」
「かっかっか! 俺の百鬼夜行はおもしれぇ奴らばっかだろう?」
アイリーンは酒を一口飲んでから頷く。
「個性的な方々が揃っているのは間違いないですわね。他にも色々な方がいらっしゃるのでしょう?」
「おうよ。すねこすりや猫又のようなちいせぇ奴からがしゃどくろや見上げ入道のようなでっけぇ奴、酒呑童子や大天狗のように様々な力に秀でた奴もいれば河童や火鼠のように環境次第では活躍が難しくなる奴まで様々だ。だからこそ、おれぁ適材適所っつー事でその場に応じた妖に力を借りる事にしてる。そうじゃなきゃ死んじまう奴も出るからな」
「妖怪も結構簡単に死んじゃうのね」
「特性的にそういう奴もいるってこったな。実際、俺も菓子を喉に詰まらせてポックリ逝っちまったわけだしな。かっかっか!」
「笑い事ではありませんよ? またあなたが亡くなってしまったら百鬼夜行の皆さんは今度こそ立ち直れない方も出てしまう可能性があるのですから」
「だな。今回の件で物をよく噛んで食べるっつー事の大切さは学んだな。それに、俺を慕ってくれてる奴らを遺して逝っちまうのも良くねぇと感じた。だから、お前さん達に約束してやるよ。俺は先に逝かねぇとな」
リンがニッと笑うと、アイリーンはため息をついてからリンの手を握った。
「本当に約束してください。もし破ったら、その時は百鬼夜行の皆さんに怒ってもらいますから」
「アイリーン、お前さんは怒ってくれねぇのかぃ?」
「私を置いて死んでしまうような薄情者には怒りすらもったいないです。これからも怒られたいなら私達を置いてどこかにいかないでくださいね?」
「かっかっか! なら、これからもアイリーンの可愛らしい怒りを見るために生き続けなきゃなあ!」
「か、かわ……!? あなたは本当に……!」
アイリーンが照れながら怒り、リンが嬉しそうに笑う中、マリアはため息をついた。
「あの二人はほんとに人目もはばからずにイチャつくわよね……」
「お前にはそういった相手はいないのか?」
「いないわ。作ってもいいけど、今はルエル様を探して再び仕える事が大事だから」
「……そうか」
「あなたこそいないの?」
オーマは
「いないな。作る予定もないが」
「そう。でも、あなたにそういう人が出来てほしいとは思うわ。あなた、冷たいというよりはどこか寂しそうだもの」
「……そうか」
「ええ」
賑やかな宴会の中、二人の空間だけは静かに過ぎていった。
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