第37話
神殿を出たリン達がアーヴィングの元へ戻ると、そこには喜び合うクラントの住民達とそれを嬉しそうに見ているアーヴィングがいた。
「アーヴィング様!」
「ん……アレクシア、それにマリア達も。どうやらうまくやってくれたみたいだな」
「はい!」
アレクシアは走り出すと、アルベルトが止める間もなくアーヴィングに抱きついた。アーヴィングは一瞬驚きながらも嬉しそうに笑いながらアレクシアを抱き締めた。
「ようやくお互いにふれ合えたな、アレクシア」
「はい、はい……!」
「美しい涙だ。俺も……非常に感動している……!」
肩を震わせていたアーヴィングは自身の胸の中で泣くアレクシアを抱き締めたままで声を上げながら泣き始め、クラントの住民達がそれを微笑ましそうに見る中でマリアはやれやれといった様子で息をついた。
「出たわね、アーヴィングの感動の涙が。アイツ、何かと感動しがちでああなるとしばらくはあのままよ」
「かっかっか! 良いじゃねぇの、おれぁ嫌いじゃねぇぜ? ああやって色々な物に心を動かされて泣ける奴に悪い奴はいねぇ。涙ってのはソイツの感情を表した物でもあるからな」
「そうですわね。アルベルト様、あなたとしてはやはり二人の関係は認められないと思いますが、ここまでお互いに綺麗な涙を流す事が出来ているわけですし、たまに会うくらいは認めても良いのではありませんか?」
アルベルトはアーヴィングを睨んでいたが、やがて諦めたように大きくため息をついた。
「アレクシアがあそこまで慕っているなら認めざるを得ないか……アレクシアが心から慕う人間はほとんどおらず、その数少ない一人があの男なのだとすればたとえ魔王軍の四天王だとしても認めざるを得ない。あそこまでアレクシアが嬉しそうにしている様子はこれまで見た事がほとんどないからな」
「それだけお前さんの娘がアーヴィングに元気をもらい、心の支えにしていたって事だな。それに幼い時分からアーヴィングの姿を視られたってのは中々今後に期待が出来る娘っ子だから、アーヴィングの訓練次第ではこの国一番のつわものになるかもしれねぇぜ?」
「たしかにアレクシア様は前々から魔術に秀でていましたし、その可能性は高いかもしれませんわね」
「へへ、だろ? さて……おーい、アーヴィング。ちょいとこっちに来てくれねぇか?」
リンの呼び掛けに応えてアーヴィングがアレクシアと手を繋ぎながら歩いてくる。
「何か俺に用だったか?」
「ああ。アーヴィング、お前さんも俺の百鬼夜行としてこの世界を嗤いにいかねぇかぃ?」
「百鬼夜行……世界を嗤いに……?」
「百鬼夜行っていうのは簡単に言えばリンが率いる軍団の名前で、世界を嗤いに行くっていうのはリン達の目標よ。この世界、私達から見れば結構変なとこあるでしょ? だから、そういうとこを見てバカな奴らって思いながら旅するみたいな感じよ」
「おお、そういう事か! 俺はルエル様の四天王だが、お前にも恩はある。だから、お前の目標が達成されるまで力を貸そう!」
「感謝するぜ、アーヴィング。因みに、マリアも一時的な百鬼夜行の一員で、他の四天王や魔王ルエルも加えるつもりだ。どうだ? 面白そうじゃねぇか?」
アーヴィングは笑みを浮かべながら大きく頷く。
「そうだな! だが、出発の前に腹ごしらえや準備がしたい。出発は後日でも良いか?」
「俺達もそのつもりだ。さて、こんなめでてぇ日だ。やるこたぁ決まってるよな?」
「ああ、宴だな!」
「ご名答。アルベルト、お前さんも良いかぃ?」
「ああ。クラントの住民達が戻ってきたと知れば、国民達も大いに沸くだろう。宴会を開くのは私も賛成だ」
「そうこなくちゃな。よし、宴の準備をするぞ、おめぇら」
リンの言葉に全員が頷いた後、リン達は手分けをして宴会の準備に取りかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます