第36話

 神殿の中へ入っていくと、石造りの壁は真っ赤に塗られており、四隅にはメラメラと燃える松明が置かれ、奥の祭壇に載せられた台座の上には赤い球体が置かれていた。



「ここがアーヴィングの拠点か。マリア、お前さんのとこもこんな感じかぃ?」

「ええ、そうよ。私達もそんなに装飾をつけるタイプじゃないし、ルエル様も私達に拠点の内装などについては任せてくださったから、自分達に合ってそうな感じにしてるのよ」

「けれど、どうして神殿なのですか? 神殿は一般的に神様をまつる場所というイメージですが……」

「それなんだけど……私達にも信奉する神様がいるのよ。その神様っていうのが、ディーアっていう女神様なのよ」

「そのディーアはどんな加護を与えてくれるんだぃ?」

「健康や長寿、後は強さかしらね。強さも肉体的な強さだけじゃなく、精神面の強さも与えてくれるらしいわ。そのディーア様は元々ルエル様が私達に広めた物で、特に信仰する対象もこれまでにいなかったし、そのご加護も私達にとって悪いものじゃないから魔王軍全体でディーア様を崇める事にして、私達の拠点もディーア様のお姿だという御神体を置いたこの神殿にしたんだけど……」



 マリアは辺りを見回すと、不思議そうな顔をした。



「ないわね……御神体」

「他に部屋はねぇようだし、あるならここにあるはずだけどな。アーヴィングの奴、うっかり壊しちまったんじゃねぇか?」

「それは出来ないはずよ。御神体はルエル様の魔力によって作られた物で、強固な守りの魔術もかけられているんだから。それに、触れるのはルエル様と私達四天王のみで、外に持ち出す理由なんてないんだから」

「となると、そこの台座に置かれている球体を置いた方がその御神体を壊し、代わりにそれを置いた事になりますわね。そしてそれだけ強力な力を持った方という事にもなりますが……」

「そんな奴を相手にしねぇといけねぇのは仕方ねぇよ。その覚悟は流石にあったからな」

「そうですわね。さて、あの球体を壊してアーヴィング様達を救いましょうか」

「おう」



 リンは祭壇に近づくと、赤い球体を手に取った。そして少し力を加えると、球体は粉々に砕けちった。



「これで良いな」

「そうですわね。さて、クラントがあった場所まで戻ってみましょう」

「ええ。アレクシア、ようやくアーヴィングとちゃんと会えるわよ」

「はい! ああ……今から待ちきれないです……!」

「アレクシアが嬉しそうなのは良いが、その相手は魔王軍の四天王……はあ、父親として本当に複雑だ……」

「そういうもんだ、恋ってのは。んじゃあ、行こうぜお前さん達」



 落ち込むアルベルト以外の全員が頷いた後、リン達はクラントに戻るために神殿を後にした。砕けちった球体を回収する手が突如出現したのに気づかぬまま。

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