第35話

 歩き始めてから数分後、リン達は炎の壁で覆われた神殿に辿り着いた。



「ここがアーヴィングの拠点って奴か。しっかしだいぶメラメラ燃えてんなぁ」

「たしかに強い炎の魔力を感じますし、これは侵入は難しいですわね」

「恐らくマリアの時と同じで他の結界も勝手に張られてるんだけどな。つー事で、今回はコイツの出番だ」



 リンは夜行の書を取り出すと、あるページに手を置いた。そしてそこから浮かび上がった光の玉にアレクシアとアルベルトが驚く中で光の玉は大きなネズミの姿に変わった。



「あっ、親分さん。今回は私の出番なの?」

「そうだ、火鼠かそ。見てみろ、メラメラ燃え盛ってんだろ?」

「ほんとだー。結構変わった炎みたいだけど、これはこれでありって感じかな。私からすれば」

「かっかっか! おめぇは炎には一家言持ってるからな。とりあえずちっと行ってきてくれ。おめぇと違って俺らは炎の中をすいすい進む事が出来ねぇからな」

「はいはーい。それじゃあ行ってくるねー」



 火鼠は地面に下ろされるとゆっくりと歩き出し、その姿を見ながらアイリーンはリンに話しかけた。



「リン、あの妖怪は何なのですか?」

「あいつぁ火鼠。火光獣かこうじゅうなんて呼ばれ方もされてる妖で、アイツの毛から織って作った布、火浣布かかんふは火で燃える事はなく、たとえ汚れても火の中に入れちまえば真っ白になるっつー特別な布だとも言われてるんだ。だから、アイツは今回に関しては適役なんだよ」

「そんな毛を持ってるならたしかにそうね」



 リン達が見守る中で火鼠は進んでいったが、やがて立ち止まると、残念そうな顔をしながらリンの元に戻ってきた。



「ただいま……」

「おう、どうだったぃ? もしやまた結界が張られてたかぃ?」

「うん、そうみたい。炎の結界は余裕だったし、そこそこ気持ちいいくらいだったけど、入り口に張られてる結界のせいで中に入れないみたい。あれは親分さん辺りが崩さないと難しいよ」

「まあそうなんだろうな。たしかに俺がやっても良いが……マリア、せっかくだからお前さんが挑戦してみねぇかぃ?」

「私が? まあ閉じ込められてた間も水の魔術を訓練したり魔力は高めたりしてたけど、私に出来るかしらね……」



 マリアが自信無さげに俯く中、リンはニッと笑った。



「お前さんの力を信じてみな、マリア。黒幕にやられっぱなしなのも癪にさわるだろうが、四天王仲間のアーヴィングを助けてぇ気持ちもあるはずだからな」

「リン……そうね、黒幕に一泡吹かせてやりたいし、ちょっとやってみましょうか」



 マリアは笑みを浮かべると、神殿の前に立った。そして手をかざしながら目を閉じると、マリアの目の前には大量の水が出現し、それが一匹の竜の姿に変わると、マリアは目をカッと見開いた。



「“水竜顎撃タイダルバイト”!」



 水竜は咆哮した後に炎の壁に噛みついた。そして壁を打ち消しながらその奥の光の壁に攻撃を仕掛けると、高い音を立てながら光の壁は粉々になり、マリアは肩で息をしながら満足そうな顔をした。



「で、出来たわよ……」

「お疲れさん。よし、後は中に入るだけだな。行くぞ」



 リンの言葉に全員が頷いた後、リン達は神殿の中に入っていった。

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