第34話
「初めての方に対して言う事ではありませんが、なんというか暑苦しい方ですのね……」
「かっかっか! 良いじゃねぇか、おれぁアーヴィングみてぇなやつぁ好きだぜ? ところでアーヴィング、おめぇに言いてぇ事がある奴がここにいるぜ?」
『おお、そうなのか!』
アーヴィングが嬉しそうに言うと、アルベルトはアーヴィングに対して警戒しながら目の前に立った。
「き、貴様が……魔王の四天王のアーヴィングか……!」
『おう、そうだ!』
「アレクシアが貴様の事を好きだと言い始めてしまったんだ! どうしてくれる!」
『ん、アレクシアが俺の事を?』
「そうだ! 渡さんぞ……アレクシアは貴様のような奴には絶対に渡さんからな!」
アルベルトが敵意をむき出しにする中、アーヴィングはアレクシアに視線を向ける。
『アレクシア、俺の事が好きなのか?』
「はい、あなたの事をお慕いしています。小さい頃からずっと」
『俺の事を……へへ、そうか。それは嬉しいし、俺もアレクシアは異性として理想的だと思ってる』
「ほ、本当ですか……!?」
『もちろんだ! ただ……初めて会った時と同じで、俺とお前はふれ合いたくてもふれ合えない。目の前にいるのに遠くにいるみたいだな……』
アーヴィングとアレクシアが揃って寂しそうにしていると、マリアはアレクシアに近づいてその肩に手を置いた。
「安心しなさい。今にふれ合わせてあげるから」
「させん、させんからな……!」
「だがよ、首相サマ。国の長としてはクラントの住民達を救うのも仕事だろ?結果的に娘の恋を応援する事になっても二十年も閉じ込められてきた国民救う方がカッコいいんじゃねぇのかぃ?」
「そ、それはそうだが……! ぐ、ぐぐぐ……!」
アルベルトの様子にアイリーンがやれやれといった様子で首を横に振る中、リンはアーヴィングに話しかけた。
「よう、アーヴィング。色々聞きてぇんだが良いかぃ?」
『ああ、もちろんだ! 遠慮なく色々聞いてくれ!』
「マリアは水の魔術や歌が得意で海姫という異名を持っているようだが、お前さんは炎の魔術以外に剣が得意だから炎勇って異名をもっているのかぃ?」
『その事か。たしかに炎の四天王として炎の魔術には自信はあるが、その異名にはもう一つ理由があるぞ!』
「ほう、そうなのかぃ。んじゃあ、なんで炎勇っていうんだぃ?」
アーヴィングは笑みを浮かべる。
『それはだな。元々俺が勇者を目指していたからだ!』
「勇者を目指していた?」
『そうだ! 勇者はこの世界の神に選ばれた人間がなれるという事をわからずに俺は体力や筋力を鍛え、剣の鍛練や元から才能があった炎の魔術の訓練も欠かさなかった! だが……その姿は故郷の人間達には異様に見えたらしく、夜に寝込みを襲ってきたんだ。俺の命を奪うためにな』
「そんな……」
「アーヴィング、お前さんは正真正銘の人間なのかぃ?」
『ああ、魔王軍の中では数少ない人間だ。そうして故郷から逃げ出し、俺が向かった先が魔王城だった。魔王を倒せば誰もが俺を勇者として認めてくれると思ったからな。もっとも、魔王様の強さの前にはまったく歯が立たなかったけれどな』
アーヴィングは懐かしそうな顔で笑みを浮かべる。
『負けた俺は殺されると思ったんだが、魔王様は挑んできた理由を聞いてくれて、それを話したらそれなら自分の配下に加われば良いと言ってくれたんだ。それから俺は魔王様の配下として努力を重ね、マリア達と同じ時に四天王にさせてもらった。だから、俺は魔王様に忠誠を誓っている。炎の四天王であり炎を操る勇者として認めてもらったからな!』
「なるほどなぁ……それを聞いてますます気に入ったぜ。アーヴィング、今からお前さん達を助けてやるよ」
アーヴィングはパアッと顔を輝かせる。
『本当か!?』
「ああ。それでなんだが、ここを支配するために拠点にしていた場所を教えてくれ。マリアの時もそこにカラクリがあったんだ」
『そうだったのか! 俺が拠点にしていたのもマリアと同じ神殿で、侵入者避けで炎の結界を張っているぞ!』
「それはマリアからも聞いてたな。だが、俺の百鬼夜行にもむしろ炎の中で普段から生活するような奴がいる。その結界くらいなら簡単にすり抜けられると思うぜ?」
『なんと、そうなのか! それは是非会ってみたいものだな!』
「かっかっか! すぐに会わせてやるさ。という事でお前さん達、さっさとその神殿とやらに行こうぜ」
アルベルトを除いた全員が頷いた後、アーヴィングが見送る中でリン達はアーヴィングの神殿に向けて歩き始めた。
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