第33話
「皆さん、到着しました。ここがクラントがあった場所です」
昼過ぎ、アレクシアが建物一つない平原を見ながら言うと、マリアは少し辛そうにため息をつく。
「やっぱり消失現象のせいでだだっ広い平原みたいになってるわね。つい昨日まで私も同じ目に遭っていたからそれを思い出して辛くなるわ」
「そうだろうな。さて、そろそろアーヴィングとのご対面と行きてぇが……」
リンはチラリと隣を見る。そこには周囲を警戒しながら見る男性の姿があった。上質な黄色と黒のツートンカラーの衣服を纏った色黒のスキンヘッドの男性の目には敵意が宿っており、男性を見ながらアイリーンは大きくため息をついた。
「はあ……アルベルト様、そこまで敵意を持たなくとも良いのではないですか?」
「何を言っている。ウチのアレクシアが四つの頃から魔王の四天王に心を奪われ、恋心なんぞを抱いているのだぞ。どんな奴なのか見た上でウチのアレクシアは渡さないと言ってやらなければ……」
「娘を想う父親の姿としては間違っていねぇが、アーヴィングが少し不憫に思えてくるな」
「およそ二十年も閉じ込められているだけでなく、自分に対して勝手に恋心を抱いている女の父親が怒りと敵意を向けてくるのだからな」
「こう考えっと、ウチの国の王様はだいぶ柔軟な考えを持った奴だった事になるな」
「お父様は面白そうな事に対して強い興味をお持ちですし、リンの事はとても気に入っていましたからね。もちろん、お母様もなのですが……」
「そういやアイリーンのおっかさんは今は病気であまり外に出られねぇんだったな」
アイリーンは表情を暗くする。
「はい……今はお姉様達が看病をしてくださっていますが、政略結婚をしなければならない程にリギス王国は以前から他国よりも力が弱い国でしたから、此度の件のスラン帝国の出方次第ではお母様には静養のために他国に避難していただく事も考えられます」
「そうだな。しかし病気か……アイリーンのおっかさんの病気は結構突然だった上に十の頃から続いてる。その点がなんか引っ掛かるんだよな……」
「引っ掛かり……まさかただの病気ではなく、魔術や呪いの類いとでも言うのですか?」
「たしかに対象の体調を崩す魔術や呪いは無くはないけど、そのどれもがそんなに長くは続かないものよ? だから考えづらいし、もしそうだとしたら誰かがそれを作り出した事になるわよ?」
「そうだな。はあ……こういう時にアイツがいりゃあな」
「どなたの事を言ってるんですの?」
リンは空を見上げながら答える。
「前世で一緒に馬鹿やったり酒酌み交わしたりしてた神だよ。物腰は柔らかで礼儀も正しいんだが、結構ノリが良い奴でな。ソイツの加護が家内安全や学業に効果があるんだが、それだけじゃなくソイツ自身が失せ物や尋ね人を見つけるのが得意なんだ。だから、こういう時にいりゃあなと思ったんだよ」
「前世ではそんなご友人まで作っていたのですね」
「神様が友達なんて聞いた事ないわね。リン、あなたってこの世界においては本当に規格外の存在なんじゃない?」
「かっかっか! んなの当然だろ? おれぁ百鬼夜行の主、ぬらりひょんだからな!」
リンがニッと笑っていた時、オーマは何かを感じ取った様子で細く息を吐いた。
「……どうやら現れ始めたようだぞ」
その言葉と同時に街や住民達の姿が現れ始め、そこにいた細身ながらも筋肉がしっかりとついた赤髪の男性はマリアを見ると驚きながらも嬉しそうな笑みを浮かべた。
『おお!? マリアじゃないか!』
「久しぶりね、アーヴィング。ほんと相変わらずね、あなたは」
『はっはっは! お前も元気そうでなによりだ! さて、アレクシアを除いたそこのお前達とは初めましてだな?』
「そうだ。お前さんが炎の四天王、炎勇のアーヴィングで間違いねぇかぃ?」
『ああ! 俺は炎勇のアーヴィング、魔王様に仕える四天王の一人だ!』
アーヴィングは遠くまで響く程の声で答えた後、明るい笑みを浮かべた。
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