第32話
「アーヴィング様との出会いは私がまだ四歳だった頃までさかのぼります」
数分後、アレクシアに軽く変装をさせた後に一軒の食堂にリン達は移動し、アイリーンに促されたアレクシアはゆっくりと話を始めた。
「このイドツ連邦でも世界各地で起きている消失現象が起きていて、クラントという街がその被害に遭っています」
「そのクラントってぇのはどんなとこなんだぃ?」
「昔ながらの街並みを残しながらも少しずつ他国の文化も取り入れていた街だと聞いています。私が生まれる前にクラントは消失してしまいましたので。お父様達もその原因を探るために度々クラントがあった地域を訪れていて、私も連れていっていただく機会が幾度かありました。そんな時だったのです。他の皆様には見えないアーヴィング様と出会ったのは」
アレクシアは軽く俯きながら頬を赤らめた。
「初めは何事かと思って怖かったですし、泣き出してしまいそうになりました。ですが、アーヴィング様は私に触れられない中でも安心しても良いと言いながら頭を撫でようとしてくださり、その男らしさ溢れる肉体や優しさ、高いカリスマ性に魅了され、もう十四年も恋心を抱き続けています」
「アイツ、四歳の子を恋に落としてたのね……まあでも十四年もって事は今は十八歳だから問題はないか」
「いずれの国でも男女ともに十八歳から結婚は出来ますからね」
「だからアイリーンもあの馬鹿王子と結婚するなんて事になりかけたんだけどな。向こうから婚約を破棄してきたわけだが」
それを聞いたアレクシアは心配そうにアイリーンに視線を向けた。
「そうでしたね……アイリーン様、そのお話はこのイドツ連邦にもすぐに伝わっていて、私もアイリーン様の事を心配していたのです。幼い頃からアラン王子のために努力を重ねたり気を遣ったりしてきたというのにこの仕打ちですから」
「もう良いんです。ここにいるリンがアラン王子に対してちょっとお灸を据えてくださいましたし、私とリンは愛し合っていますから」
「へえ、アイリーンにしちゃあ珍しく素直じゃねぇか。俺から色々言えば顔を真っ赤にして怒った後にデレてくるってのに」
「そういう私は嫌いですか?」
「いいや、そういう面も含めておれぁアイリーンを気に入ってるんだ。それこそ出会ってからずっとな」
リンとアイリーンが笑いあっていると、アレクシアは羨ましそうにため息をついた。
「良いですね……私も早くアーヴィング様を抱き締めたり愛の言葉を囁いたりしていただきたいです」
「アイツが自分に向けられてる恋心に気づくかはわからないけどね。ただ、気づいた後はあなたのために情熱を燃やして色々してくるはずだから、その覚悟だけはしておきなさいね」
「もちろんです。アイリーン様、消失現象についてはまだわからない事ばかりですが、アーヴィング様やクラントの街の皆さんを助けるために力を貸していただけませんか?」
アイリーンは笑みを浮かべながら頷いた。
「もちろんですわ。元々、私達は炎の四天王に会いに来たわけですし、目的は同じですから」
「んで、助けた後は俺の百鬼夜行に加える。話を聞く限り、かなりのつわものみてぇだからな。仲間に加えねぇ手はねぇさ」
「百鬼夜行……?」
「簡単に言うならば、リンが率いる軍の名前だ。亜人達ともまた違った者達を率い、この世界に発生している歪みを正した後にこの世界を嗤うのがリン達の目的のようだ」
「世界を嗤う……よくわからないですが、なんだか面白そうです!」
「へへ、だろ? さて、そうと決まれば早速クラントがあったとこまで行こうぜ。アレクシア、案内してくれるかぃ?」
アレクシアは大きく頷く。
「はい、もちろんです!」
「いえ、ちょっと待ってください。アレクシア様を勝手に連れ出したら大騒ぎになりますわよ?」
「んじゃあアイリーンがアレクシアと一緒にここの長に挨拶して、許可をもらえば良い。そういう外交事は得意だろ?」
「……そうですわね。ですが、リンやオーマ、マリア様にも同席はしてもらいます。良いですわね?」
「おうよ。んじゃあ行くかね」
四人が頷いた後、リン達は軽く食事を済ませ、首相に謁見するために店を出ていった。
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