第四章 イドツ連邦

第31話

 イドツ連邦、そこは周囲を山や森、川や海といった自然に囲まれ、多くの芸術品を生まれては世に出ていく事から芸術の国として広く名を知られていた。


 そんなイドツ連邦の首都であるルベリにある美術館にリン達の姿があり、アイリーンは目を輝かせながら美術品達を観ていた。



「本当に素晴らしいですわね……!」

「お前さんは本当にこういうのが好きなんだねぇ。まあ俺も美術品は嫌いじゃあないぜ? そこまで目を輝かせる程ではないけどな」

「リンはどういう美術品が好きなの?」

「強いて言えば、壺かねえ。その形や柄、材質は職人の感覚や腕によってだいぶ変わる。それ故に寸分たがわず同じもんなんてのは決して存在しねぇ。その唯一無二なとこは結構好きだぜ?」

「そうか。さて、イドツに来たからには美術品を観たいという願いは叶えた。早々に情報収集に移るぞ」



 オーマの言葉にリンはやれやれといった様子で首を横に振る。



「オーマ、気持ちはわかるが、少しは美術品を愛でるっつー気持ちはねぇのかぃ?」

「ないわけではないが、全てが終わってからでも遅くはないだろう?」

「それはたしかに……そもそもイドツ連邦にはアーヴィングを探しに来たわけだから」

「ああ、炎の四天王か。因みに、アーヴィングはどんな奴なんだぃ?」



 マリアは懐かしそうな顔をする。



「炎の四天王らしい熱い男よ。熱血漢な性質だからか自分の配下達には結構厳しめな訓練でも頑張れば出来るって言ってやらせるだけじゃなくて自分もその二倍くらいの訓練を平気でこなしてて、配下達がそれをこなすと滝のような涙を流して喜ぶような変な奴。でも、配下達からは本当に慕われていたし、炎の魔術や剣の腕は本当に大した物だったから魔王様も本当にそこは評価していた。私達他の四天王も嫌いではなかったしね」

「へえ、因みに飯を食う事や酒を飲む事は好きかぃ?」

「大好きよ。大食いな上に大酒飲みだし、配下達に対して自分よりも食べたり飲んだり出来たら褒美をやるぞなんていつも言ってたわ」

「くく、そうかぃ。ウチにも一度酒で失敗こそしてるが、無類の酒好きがいるからソイツと会わせたら二人でずっと飲んでそうだな」

「そうですわね。さて、オーマの言う事もわかりますし、そろそろ行きましょうか。私も満足いたしましたし」

「あいよ」



 リン達は順路に沿って歩くと、そのまま出口から外に出た。そして商店などがある広場に向かって歩いていたその時だった。



「待っていただけますか?」



 リン達は立ち止まり、後ろを振り返る。そこには赤いドレス姿の女性が立っており、その姿にアイリーンは驚いた。



「あなたはアレクシア様ではありませんか」

「知り合いかぃ?」

「はい。こちらのアレクシア・フューラー様はこのイドツ連邦の首相であるアルベルト・フューラー様のご息女でパーティーで何度もお会いした事がある方です。ですが、どうしてあなたがここに? どなたもつけずに街中にいては騒ぎになりますわよ?」

「それは承知の上です。私は愛する人を救うためにお父様達の目を盗んで出てきましたから」

「愛する人……その方は一体どなたなんですの?」



 アレクシアは真っ直ぐな目で答えた。



「魔王の四天王の一人、炎勇のアーヴィング様です」

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