第29話

 宴が盛り上がり、夜も遅くなってきた頃、リンはアイリーンを抱き抱えながらドルフの住民が用意していた宿屋に向けて歩いていた。



「実に良い夜だな。月の光が気持ちいいぜ」

「そう……です、わね……」

「かっかっか! もうだいぶおねむみてぇだな。まあ日中はリギス王国からギルベ王国まで歩いて、その後にここに来て消失していた町を救って宴で盛り上がったからな。疲れて当然だ」

「それもありますが……これまでこのような時間まで起きている事がありませんでしたから」

「俺に抱かれて気持ち良さそうにしてたあの夜以来だろうしな」



 リンがニヤリと笑うと、眠たそうにしていたアイリーンはハッとし、恥ずかしそうに顔を赤くした。



「か、勘違いしないでくださいまし! あれは初めてで慣れていなかった事でより快感を感じてしまっただけで、慣れてきたらあなたよりも優位に立てますから!」

「へへ、そいつぁ楽しみだねぇ」

「ま、まあ……手慣れている上に優しさのあるあなたのやり方はとても安心出来るものではありましたが……」

「かっかっか! アイリーンのツンデレ、出ちまったなあ」

「う、うるさいですわよ!」



 アイリーンは大きな声を上げた後にそっぽを向いた。



「……この後はまた宴会に戻るんですの?」

「そのつもりだが、もうエドワードやオーマぐれぇしか起きてねぇからな。お前さんを寝かしつけたらアイツらとも話して軽く片付けてから寝ちまおうかとも思ってる」

「明日は一度お城に戻る予定ですからね。あまり飲みすぎても身体に障りますし、それが良いと思いますわ」

「まあそんときゃあお前さんと一緒に寝るさ。愛してる女と寝られるのは男として幸せな事だからな」

「リン……まったくあなたという人は仕方ありませんわね。それならそれを許可しますから、早く戻ってきてくださいね?」

「おう。なんなら今夜も徹夜でお前さんを抱いてやろうか? 子を孕むまでお前さんの中に注いでやるだけの元気はあっからな」

「調子に乗らないでください!」



 アイリーンが顔を真っ赤にしながら怒りを見せると、リンは動じること無く笑い始めた。



「かっかっか! 流石に今夜はしねぇさ。おれぁお前さんが望んだ時にしか手は出さねぇし、お前さんを大切にするって決めてっからな。自分の欲に任せて女を道具みてぇにしか扱わねぇ男はろくでもねぇし、そんなのは男じゃねぇ。理性も脳みそもねぇただのけだものだよ」

「……たしかにあなたは女性好きではありますが、そういったところはしっかりしていますからね」

「当然だ。おれぁぬらりひょんである前に男らしい男でありたいと思ってるからな」

「そういったところに私は魅力を感じたのかもしれませんね。普段はだらしないところこそありますが、しっかりとしないといけない時はしっかりとしていますから」

「当然だな。さて、明日も頑張っていこうぜ、アイリーン」

「ええ」



 二人は笑い合った後に静かに口づけを交わした。そして、月明かりが静かなドルフの町を照らす中、宿屋に着いたリンはアイリーンと一緒に中へと入っていった。

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