第28話

 夜、復活したドルフの町の広場では大宴会が開かれ、喜び合う町の住民達の中心ではリンやエドワードが楽しそうに笑みを浮かべていた。



「かっかっか! この雰囲気は実に良い! 宴とはやはりこうでなくてはな!」

「同感だ。盛り上がってこそ宴、大勢で食べて飲んでこその宴だからな!」

「ああ。アイリーン、オーマ、そしてマリア。お前さん達ももっと盛り上がると良い。せっかくの宴なんだからな!」

「それはそうなのですが……こういった雰囲気の催し事にはあまり慣れていないのでどう盛り上がれば良いのかわからないのです」

「私は静かに飲む方が好みだ」

「あなたは魔王様と本当に似ているのね。魔王様もそう言ってらしたわ」

「ほう、魔王もそうだったのかぃ。それで、魔王ったぁどんな奴だったんだぃ? いたというわりにはその話を聞いた事がまったくねぇんだ」



 マリアは酒を一口飲んだ後、懐かしむような顔をした。



「とても聡明な方よ。私達のような存在にとっては救いでもあったから」

「マリアのような存在?」

「ええ。私は人間の父親と人魚の母親の間に生まれたハーフなのよ。見た目は母親似で、身体は人間寄り。人魚の血を引いている分、ところどころに鱗はあるけれど」

「なるほど。だから、海の中の神殿を拠点にしていたのですね」

「そうよ。人間と同じ見た目はしているけれど、人魚の血を引いているから海の中に潜っていても息は出来るし、水の魔術を扱う才も生まれつき持っていたの。もっとも、父も母も人間達の手によって殺されたけれど」



 マリアが表情を暗くする中、リンは不思議そうな顔をした。



「殺されたったぁなんでだ?」

「あなた達は不思議に思わなかった? 亜人の存在は聞いた事があっても見た事がない事を」

「以前、授業で人魚や獣人の話を聞いた事がありますが、人間に対して仇なそうとした結果、敗北してその姿を消したと習いましたわ」

「私の両親のように殺されたのもいるけれど、本当は魔王様が亜人やハーフ達を保護してくださった事で私達は人間の前から姿を消したの。人間達は自分達の存在こそ至高だと言って、亜人や亜人に味方する人間達を殺していったからね。そして私達がいなくなった後、人間達はその歴史を自分達の都合の良いように改竄したのよ」



 辛そうなマリアを見ながらリンは酒を一気にあおった。



「……俺からすれば他人事ではねぇな。アイリーン達は知ってるが、おれぁ前世では人間とは違う存在だったからな」

「たしか前世のリン達も人間達に住みかを奪われたり人間に紛れて暮らしたりしなければならなかったのですよね?」

「おうよ。だからこそ、おれぁ魔王の奴に味方する。性格こそちげぇようだが、考えはわかるからな」



 ニッと笑うリンを見たマリアは安心したように微笑む。



「魔王様、ルエル様もきっと喜ばれるわ。もっともどこにいらっしゃるのかわからないけれど」

「今頃は同じように月でも眺めながら再起の時を待ってるんじゃねぇか? 力こそ失ったようだが、お前さん達まで失って黙ってられるようなタマじゃなさそうだしな」

「ええ、私もそう思うわ。リン、今はあなたの百鬼夜行とやらに加わるけれど、魔王様が復活なされたら四天王として魔王様の下に戻るからそのつもりでいて」

「かっかっか! そりゃあ構わねぇさ。だが、おれぁ魔王も百鬼夜行に加えるつもりだ。そして一緒になってこの世界を嗤ってやるのさ」

「この世界を嗤う……ふふっ、なによそれ。あなたって本当に変わってるのね」

「変わりもんじゃなければ面白くもねぇさ。さーて、宴はまだまだこれからだ。おめぇら、今夜は寝かさねぇつもりだから覚悟しな!」



 リンの言葉にエドワードや町の住民達が声を揃えて答える中、アイリーンはやれやれといった様子でため息をついた。そして月の光や松明に灯った炎が辺りを照らす中、リン達は楽しそうに宴を続けた。

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