第20話
「うっし、そろそろ出発しようぜ」
旅立ちの日、アーサーや兵士、そして城下町の住民達や両親に見守られながら荷物を背負ったリンの言葉に軽装のアイリーンは頷く。その腰には長剣が差してあり、左手の薬指にはリンとお揃いの指輪がはまっていた。
「旅立つと決めたからには早く行った方が良いですからね。でないと日が暮れてしまいますわ」
「だな。国王、みんな、それじゃあちょいと世界を嗤いに行ってくらあ」
「ああ。だが、少しだけ待っていてほしい」
「ん、どうかしたかぃ?」
「なに、お前達の旅に一人同行者をつけるだけだ」
「同行者……ですか? 初耳ですが、一体どなたなんですの?」
アイリーンが首を傾げていると、国王の後ろからオーマが現れた。
「国王、準備は完了だ」
「そうか。リン、アイリーン、お前達の旅に同行するのはオーマだ」
「オーマが私達の旅に……」
「へえ、そいつぁおもしれぇこった。だが、良いのかぃ? そいつは宰相だろ?」
「そうだが、オーマも元はリンと同じように故郷や知り合いを歪みによってうしなっている。その解決のためならば力を貸したいと言ってくれたのだ」
「オーマもリンと同じだったのですね」
オーマは静かに頷く。
「そうだ。私達の暮らしを壊した歪みは早々に正さなければならない。リン、お前も同じ気持ちだろう?」
「まあな。故郷だったホニンの国は結構住み心地が良かったし、実際に被害に遭っているからこそあの歪みによる現象は早く正しちまった方がいいと思ってる。この旅立ちのために十数年も待つ事にはなっちまったがな」
「ああ。私も力を取り戻すのに多くの時間をかけてしまった。だが、かつての力を取り戻した事で私も戦力として申し分なくなったと自負している。リンに遅れをとる事はまずないだろう」
「ほう、たいそうな自信じゃねぇか。なら、後でその力を拝ませてもらおうかね」
「良いだろう。かつて多くの者達を率いていた者として、百鬼夜行の主たるお前の力も見定めたいからな」
「多くの者を……オーマ、もしやかつてのあなたはお父様と同じような王様だったのですか?」
アイリーンの言葉にオーマは静かに頷く。
「その通りだ。当時は民草達の平和のためにこの力を使ってきたが、今はお前達のためにこの力を振るおう。リンと同様に私もアーサー達に世話になっているからな。その恩を返す時が来たのだ」
「良い目をしてるじゃねぇか、オーマ。お前さんも百鬼夜行に加わらねぇか?」
「それも良いが、今は遠慮しておこう。それで、目的地は決まっているのか?」
「いいや、まだだ。とりあえず隣国に行ってなんか話を聞こうと思ってる」
アイリーンは呆れた様子でため息をつく。
「中々目的地を話してくださらないと思ったら、そんな行き当たりばったりな考えだったのですね」
「かっかっか! それも楽しみの一つってもんだ。よし、それじゃあ世界を正しに、そして世界を嗤いに行こうぜ。お前達」
アイリーンとオーマが頷いた後、アーサー達に見送られながらリン達はゆっくりと歩き始めた。
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