第三章 ギルベ王国

第21話

 リギス王国の隣に位置し、美食の国として名高いギルベ王国。その首都であるリュセルでリン達は食事を楽しんでいた。



「流石は美食の国、出てくるもんが本当にうめぇな」

「王様自身が美食家ですし、食への探究心もあるからかご自身も酪農を行ったり菜園を作ったりして、とれた食材は厨房に立って調理なさるそうですよ」

「ほう、そりゃあ気が合いそうだ。まあ俺の場合は酒のツマミが多くなるし、基本的にはどっかの家に入って茶や菓子を勝手に飲み食いする方なんだけどな」

「平気で犯罪をしていますわね。ぬらりひょんとはそういうものなんですの?」



 リンは咀嚼していた物を飲み込んでから答える。



「そうだ。それ故に動きも軽やかになり、相手に気づかれずに動くという事も容易になった。まあおれぁそうでなくとも強いんだがな。かっかっか!」

「だが、諜報や暗殺が容易に行えるという点は高く評価できる。その技術に助けられる時はそう遠くないだろうな」

「無意味な殺生はしねぇ主義だけどな。んで、ここでとりあえず何をする? アイリーンの顔でも使ってここの王様にでも話聞くか?」

「それが良いと思っています。リギス王国よりもギルベ王国は他所からの旅人の数は多いそうですし、歪みについての情報は集まっているはずです」

「わかった。そうと決まれば、さっさと飯を食っちまうか」



 アイリーンとオーマが頷き、三人が再び食事をしていると、そこに一人の人物が近づいた。



「そこのあんたら、良い食いっぷりじゃねぇか。惚れ惚れするぜ」

「ん?」



 リン達を見ながら笑みを浮かべていたのは簡素な服に身を包んだ大柄な体格の男性であり、左手の薬指に銀色の指輪をはめている以外は極めて質素な印象を抱くものだった。



「おう、隣国のリギス王国から来たばっかでな。腹ごしらえしながら今後について話してたんだ」

「リギス王国からか。あそこも平和で住み心地の良いとこだが、このギルベ王国だって負けちゃいねぇ。なんせ美食の国だからな。新鮮な食材も一流の料理人だって揃ってるんだ」

「かっかっか! そりゃあいま実感してたとこだ。飯も美味い上に辺りから色々な香りが漂ってくるったあ大したもんだぜ」

「だろ? だが、その真髄はまだ味わいきっちゃいねぇぜ?」

「へえ、言うじゃねぇか。それをお前さんが証明してくれるのかぃ?」

「そんなとこだ。あんたはそれがどんなもんか知ってるよな? リギス王国の第二王女、アイリーン嬢?」



 アイリーンはため息をついてから頷く。


「そうですね。このギルベ王国の王様であらせられるエドワード・オールドフィールド様」

「ほう、お前さんがここの王様だったのかぃ。王様がそんな簡素な服を着て街中を歩いてると思わなかったぜ」

市井しせいの生活の様子にも注意を払ってこそ国王だと思ってるんでな。それに、たまにどっかの店の厨房を借りて旅人に飯を振る舞う事もあるんだ。つまり、こういう事は俺にとっては日常なんだよ」

「かっかっか! お前さん、たいそう気持ちの良い奴じゃねぇか。おれぁ気に入ったぜ」



 エドワードは笑みを浮かべる。



「俺もだ。国王だと聞いても一歩も引かずにフランクに接してくる奴なんて滅多にいねぇから新鮮で仕方ねぇ。さて、色々話もしてぇから城まで行こうぜ。そこでもっと色々な飯を振る舞ってやるよ」

「そいつぁ楽しみだ。だが、せっかくだ。お前さんもここの店の味を改めて楽しんでいきな。そういうのもたまには良いもんだろ?」

「はっはっは! 違いねぇな。んじゃ、ちょっくら失礼するぜ」



 三人が頷いた後、エドワードは空いている席に座った。そして城下町の住民達が物珍しそうに見る中でリン達は楽しげに話をしながら食事を続けた。

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