第18話
リギス王国から遠く離れた場所に位置するスラン帝国。その城の一室では第二王子であるアランが一人の女性に熱っぽい視線を向けていた。
「ああ、アーサラ。君は本当に魅力的な女性だよ」
「アラン様こそとても凛々しくて魅力的ですよ。あなたのような方に好意を寄せていただけるなんてこの上ない幸せです」
「そうだろそうだろ。君は本当にあんな薄汚い女と違って綺麗だ。純粋で可憐だ」
「もう、アラン様ったら……」
アーサラは満更でもない様子を見せる。所々を軽くカールさせたブロンドのセミロングに多くの装飾品がついたドレス、そしてキラキラと輝くアクセサリー類、とその生活の豊かさは明らかであり、それを見るアランはうっとりとしていた。
「しかし、あの女は本当に鬱陶しかった。一々うるさい上に品もない。おまけに僕がいながらよそに男を作っていたんだからな」
「本当ですね。アラン様が可哀想……」
「そうだろそうだろ。ああ、あんな奴との婚約を破棄出来てせいせいし──」
「ほう、本人のいねぇところで好き放題言うじゃねぇか」
「え?」
ドアのところには青色の着流しを纏ったリンの姿があり、突如現れたリンにアランとアーサラは驚きながら怯えた。
「な、なんだよお前は……!?」
「おや、俺の顔を見て思い出せねぇってかぃ? 十一年前の事も思い出せねぇったぁ大した事ねぇおつむだなあ」
「十一年前……」
その瞬間、アランはハッとする。
「お前、あの時の不敬な奴か!」
「おうよ。ようやく思い出したか、このうすらとんかち」
「な、何をわけのわからないことを!」
「まあそれはさておき、俺の知り合いのアイリーンをよくも泣かせたな、この野郎。たしかにアイリーンは度々俺んとこに来てたが、ありゃあ男女の関係だからじゃねぇ。アイツなりに初対面の頃から少々気にくわなかった俺の礼儀を正してやろうという考えがあったからだ。もっとも、おれぁ直す気にはならねぇけどな」
顔は笑いながらも目は氷のように冷たいリンの姿に二人は震え上がる。
「ま、まさか復讐のために来たのか……!?」
「いんや、違うぜ。おれぁ復讐なんざしてもしょうがねぇと思ってるからな。だが、警告だけはしといてやるよ」
「け、警告……?」
「そうだ。おれぁリギス王国やアイリーン達に恩義がある。だからこその警告だ」
リンはずかずかと進んでいくと、強い殺気と妖力を発しながらアランの胸ぐらを掴んだ。
「ひっ!」
「一応リギス王国にはお前達のような邪な奴らが入ってこられねぇような呪いをかけてるが、もしもリギス王国やアイリーン達に危害を加えたその時には容赦なくおめぇらの命を奪う。地獄の底まで追い詰めて責め苦を与えてやるよ。わかったか?」
「ひ、ひぃ……」
「わかったかって聞いてんだよ! このボケナスが!」
「ひ、ひいぃっ!?」
アランは悲鳴を上げると、恐怖のあまり失禁した。そしてアランから漏れだした排泄物が床に広がっていき、アーサラが嫌そうな顔でアランから離れる中、リンはアランを放し、ふんと鼻を鳴らした。
「この程度で漏らすたぁ情けねぇ。やっぱおめぇみてぇな奴にアイリーンのような良い女はもったいねぇや」
「あ、ああぁ……」
「じゃあな、金しか取り柄のねぇでくの坊。もう一生会う事はあるめぇよ」
リンの姿が影となって溶けていく中、アランの悲鳴を聞き付けた兵士が部屋に駆け込んでくる。そしてアランが助け出される中、アーサラはアランに対して失望したような視線を向けていた。
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