第16話

「ふう……やっぱまぐわいの後の風呂は格別だねぇ」



 夜明け頃、家に併設された浴場でリンは肩まで湯船に浸かりながら気持ちよさそうに独り言ちる。その後ろには背中を向けるアイリーンがいたが、アイリーンの表情も気持ちよさげな物だった。



「そうでなくともこのお風呂は気持ちいいと思いますよ。まあお城の浴場で入るものよりも気持ちは良いですが」

「コイツの中には色々な成分が入ってるからな。温度も程よくなるように調整はしてるし、温泉宿でも作れるくれぇにはしっかりとした温度と泉質になってるはずだぜ?」

「これも百鬼夜行の皆さんのお力添えによるものですか?」

「そうだ。ところで、初めての体験はどうだった?」



 アイリーンは軽く赤面する。



「ま、まあ……初めての私に対して色々優しくしてくださいましたし、その……とても気持ちよかったですわ」

「かっかっか! そりゃあよかった。俺も今までに抱いてきた女の中でもお前さんとの相性が一番良いって感じたぜ」

「本当ですか?」

「嘘は言わねぇよ。言ってもしょうがねぇしな」

「そうですか……」

「まああの馬鹿王子がお前さんを手放したから俺がこうしてお前さんとの一夜を共に出来た。そこだけは感謝しても良いかねぇ」



 リンは天窓から差し込む陽の光を眩しそうに見る。



「だが、あの野郎がお前さんにした事を許したわけじゃねぇ。ねぇとは思うが、助けを求めてきてもおれぁ何も手を貸す気はねぇ。アイリーン。お前さんもそうだろう?」

「そうですわね。お父様もこの件についてはお怒りですし、婚約のお陰で結ばれていた国交もこれで終わりです。今後は貿易もしない事でしょう」

「そうだろうな。さて、お前さんとこういう関係になったからには王様にちょっくら挨拶にいかねぇとな」

「本日中に行くのですか?」



 アイリーンの問いかけに対してリンは頷きながら答える。



「おう。お前さんも一度帰っときな。王様やオーマはだいたい察してると思うが、他の連中はどこに行ったんだって大騒ぎしてるだろうからな」

「それはあり得ますわね」

「だろ? そういや……お前さんに俺と繋がってる札を渡したよな? ショックを受けた時に呼べばすぐに駆けつけたってぇのにどうして使わなかったんだ?」

「使っても良いかなと思いましたが、使わずそして泣かずに気丈に振る舞ってこその王女だと思いましたので」



 リンは大きな笑い声を上げる。



「かっかっか! やっぱお前さんは最高だ。お前さんみてぇに強い女は大好きだぜ?」

「愛してますか?」

「さっきも言ったろ? おれぁお前さんを愛してるってな」

「そうでしたわね。私もあなたの事は愛していますわ。他のどの男性よりも」

「くくっ、こいつぁ嬉しいねぇ。んでどうする? 俺達、これから恋人同士ってのになるかぃ?」



 アイリーンは顎に手を当てる。


「そうですわね……それでも良いのですが、やはり私はまだまだあなたの事で知らない事が多いですし、告白というのはもう少しムードがある時が良いです。なので、交際はその時までお預けですわ」

「あいよ。まあだからといって他の女に手を出す気はねぇから、そこは安心しな」

「はい。その代わり、あなたの夜のお相手くらいならたまにして上げても良いですわ。感謝してくださいね?」

「へへ、もちろんだ。さて、もう少し入ったら二人で一眠りとしゃれこもうぜ?」

「はい」



 二人は笑いあい、二人しかいない空間と時間をゆったりと楽しんだ。

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