第15話

 家の前に出現したリンは空を見上げる。時刻が夕暮れ時であった上に外は大雨を降らす厚い雲が空を覆っていた事で薄ぼんやりとした視界しかなかったが、雨に打たれながらもリンはニヤリと笑った。



「へへ、良い雨に変わったじゃねぇか。さっきまでのは空が悲しくて泣いてる感じだったが、今は嬉し涙って感じだな」



 リンが家のドアを開けると、家の中は明かり一つついておらず、暗闇と静寂に支配されていた。



「おっとさんとおっかさん、こんな雨でも出掛けちまったのか? まあアイリーンは疲れて寝てるだろうし、けぇって来るまで待ってるとするかね」



 暗闇の中でもリンはずんずんと進み、アイリーンの元に向かった。そして自室のドアを開けると、そのままベッドに向かって歩いたが、ギシッという小さな物音が室内に響いた瞬間にリンはそちらに顔を向け、自分に近づけられていた手を強く握った。



「いたっ!」

「……アイリーン、起きてたのは良いが、悪ふざけはよした方が良いぜ?」



 手を掴むリンに対して毛布を体に巻き付けたアイリーンは驚く。



「……何故この暗闇でもわかるのですか?」

「言ったろ? 俺達は闇夜に紛れていたって。だから、俺みてぇに暗闇でも見える奴ってのは多いんだよ」

「……ならば、私のこの姿もわかるのですよね」




 アイリーンは毛布を床に落とす。すると、暗闇の中でアイリーンの裸体が露になり、リンは小さくため息をついた。



「アイリーン……」

「あなたにその気がないのはわかっています。ですが、これはヤケなどではありませんし、純粋にあなたに抱かれたいと思っているのです」



 窓から月明かりが差し込む。そしてアイリーンの裸体が月明かりを反射してキラキラと輝くと、リンはアイリーンの手を離し、顔をゆっくりと近づけた。



「後悔しねぇか?」

「しませんよ。以前も言ったようにあなたは男性の中ではマシ、いえ今となっては上位に位置する程の存在だと思っています。そんなあなたと一夜を共にするのです。後悔するわけがないですよ」

「いつの間にやらお前さんにだいぶ評価されていたようだな。おれぁ嬉しいぜ?」

「因みに、あなたのお父様とお母様は村長さんに呼ばれて朝まで帰らないそうですし、私は城に帰った後に行き先を告げずに転移魔法でここまで来ました。私達を邪魔する方は誰一人いませんよ」

「そうかぃ。だったら、お前さんのその覚悟に俺も応えなきゃいけねぇな」



 リンはニヤリと笑うと、ゆっくりと服を脱ぎ出す。そして月明かりが生まれたままの姿の二人を照らし出すと、リンはアイリーンに静かに口づけをした。



「……へへ、お前さんの唇は本当に柔らかくてあめぇな」

「あなたの好みでしたか?」

「ああ、もちろんだ。そのキメ細やかな肌も均整の取れた体つきもその顔も俺にとっちゃあ好みでしかない。そんなお前さんを味わえるんだ。幸せ以外の何物でもねぇさ」

「それはよかったです。では……」

「ああ、こっちこい。アイリーン」

「はい」



 二人はベッドに向かう。そして暗闇と静寂だけだった世界には愛し合う二人の男女の幸せそうな声や物音が満ちていった。

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