第12話

 リン達がロドンの村に戻ってくると、入り口では二人の男性がそれを迎えた。



「リン、それにアイリーン王女様」

「ん? おう、ケントにナイジェルか。今日も門番の仕事、ご苦労なこったな」

「ああ。リンは今日も丘でボーッとしていたのか?」

「そんなとこだ。だのに、この王女様が来なすったから、ちっと村に戻ってきたんだよ」

「王女様がお目付け役みたいになってるよな、お前の場合は。十一年前に出会った時から不思議な奴だとは思ってたけど、お前くらいなもんだと思うぞ? 王族や貴族でもないのに王女様に対してそこまで横柄な態度を取れるのは」

「かっかっか! おれぁこの世界の奴らに後れは取らねぇし、この世界の理には縛られねぇのよ。おめぇらもあの馬鹿野郎にせっつかれて戦って身に染みたろ?」



 ケント・ブレアとナイジェル・セリグマンは静かに頷く。



「こっちの攻撃なんて一度たりとも当たらなかったし、それでいてこっちにギリギリ攻撃が当たらないようにしながら色々やってくるような奴だったからな。今だってたまに訓練で相手になってもらってるけど、お前のその百鬼夜行もだいぶおかしい強さだしな」

「大天狗に首を絞められてた時の恐怖は今でも覚えている。そんじょそこらの魔術師じゃ使えないような風の技や法力とかいう未だに正体がわかっていない力、そして宙を自由自在に飛ぶ翼にあの体格から繰り出される強力は厄介どころではなかったな」

「アイツらも普段から色々鍛練してるんだ。その努力は報われて当然だろ?」

「それはそうだけど、アイツらもお前もまだ強くなるのか……」



 ケントは憂鬱そうにため息をつく。



「かっかっか! 俺らはまだまだ成長中って事だ! おめぇらもまだまだわけぇんだから鍛練を怠るなよ?」

「今の歳なら俺達よりも若いくせに……あ、そうだ。アイリーン王女様、オーマさんが村長のところまで迎えに来てましたよ」

「オーマが? わかりました、すぐに行きます」



 アイリーンが答えていると、リンは顎に手を当てる。



「オーマ……ああ、あの頃はアイリーンの世話係やってて、今は宰相なんだったか。もう何年も仕えてるわりにまったく見た目が変わらねぇよな、アイツは」

「それはたしかに。ですが、とても頭が切れますし、魔法や剣術の才もありますからお父様も頼りにしています。目元が涼やかで長身、その上いつも落ち着いていて大人の色気を漂わせているので女性からの人気は高いのですが、どの女性からのアプローチにもなびく事はないようなのです」

「男が好みなんじゃねぇのか? 女の中にはそういうのが好きなのもいんだろうし、そうだとしたら大喜びだろうぜ?」

「そういう話は聞いた事がありませんが……まあそうだとしても私は別に否定はしませんよ。好みはその人によりますので。では、私はこれで」

「おう、じゃあな」



 アイリーンが歩いていくと、それを見ながらリンは呟く。



「にしても、アイツが遂に結婚か……」

「といっても本人からすれば望んでない結婚なんだろうけどな」

「そうだろうな。ただ、少し気になる事を聞いたな」

「気になること? そりゃあなんだぃ?」

「あの馬鹿王子、いやアラン王子の事なんだが、どうやら他に女性がいるらしい」

「他に女が……」



 ナイジェルは頷く。



「ああ。平民の女性らしいんだが、とても親しげに話しているところを見たとスラン帝国から来た旅人から聞いた」

「……そうかぃ」

「お前、本当に王女様を気に入ってるし、こういう話は気分悪いんじゃないのか?」

「まあ男ってのは本気で好きになる奴が出来るまでは遊び呆けて成長するもんだ。だがな……」



 その瞬間、空気はピンと張りつめ、ケントとナイジェルは震え上がった。



「お、おい……」

「不義でアイツを泣かせようもんならおれぁ容赦しねぇ。地獄の果てまで追いかけ、目に物を見せてやるよ」



 ぬらりひょんとしての妖力やアランへの殺気が漏れだしており、リンが落ち着くまでケントとナイジェルは歯をガチガチと鳴らすしかなかった。

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