第二章 青年期
第11話
「そろそろ頃合いかねぇ」
ロドンの村の外れにある丘でリンは一人呟いた。
「齢も18になって酒を飲んでもよくなって、旅をしていてもおかしくねぇ風には見られるようになった。まあ見てくれの年齢なんざ幾らでも妖術で変えられるんだが、こうしてしっかりと成長したからこそ体力も腕力もそれ相応につけられた。今こそ女神さんからの依頼をこなしつつ、この世界を嗤いに行く時だな」
リンは夜行の書を出現させると、パラパラと捲る。
「ついでに百鬼夜行も増やすかね。七つの時に仲間に加わった黒竜以来増やしてねぇし、旅の中で増やすのもおもしれぇしな。この世界には前にいた世界では物語の中の存在としか扱われてなかったような奴らもゴロゴロいるようだし、そういう奴らを百鬼夜行に加えるのも悪かねぇ。へへ、夢が膨らむなぁ」
更に増えた百鬼夜行を想像してリンが笑っていると、そこにアイリーンが姿を見せた。
「あなた、またこんなところにいましたのね。あなたのお父様達から聞きましたが、こんなところに来て何をしているのです?」
「おう、アイリーン。たまにゃあ俺もこういうとこから景色を眺めたくなるのよ。おめぇもどうだぃ?」
「まあ眺めが良いのは認めますし、そのお誘いに乗って差し上げてもよろしいですわ」
「へえ、いやに素直じゃねぇか。やっぱあのアランって奴との結婚がちけぇからちっと参ってんのかぃ?」
アイリーンは静かに頷く。
「そうですわね。あなたにやり込められてからというもの、彼はより粗暴になって私以外の女性と親しくしている姿をよく見かけるようになりました。そんな方との結婚なんて本当に嫌ですわ」
「だから俺の女になっとけばよかったんだぜ? おれぁ何度もお前さんに言ったはずなんだがな」
「……それも手でしたわね」
アイリーンがため息混じりに言うと、リンはそれを見ながら大きくため息をつく。
「はあー……まったく張り合いがねぇなぁ。いつも気丈なおめぇじゃねぇと俺もやりづらくてしかたねぇや」
「それだけ今回の結婚が嫌というわけですわ。元から乗り気ではありませんでしたしね」
「だろうな。んじゃあこうしようぜ」
「え?」
リンはアイリーンの頬に手を添えると、今にもキスを交わそうとするかのような距離まで顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと……!?」
「アイツがおめぇに手を上げたり危害を加えたりしたら俺がおめぇを拐いに行く。んで、俺がおめぇを嫁にする。どうだ? 貴族の女達に人気だっていう物語の中の出来事みてぇでワクワクしてこねぇか?」
「あなた……」
「何度も言うが、俺はお前さんを気に入ってる。そのいつも強気な態度も美貌もその全てを気に入ってる。お前さんを手に入れたら他の女にちょっかいかけたり抱いたりしなくてもいいくれぇには気に入ってんだ」
「…………」
「だから、お前さんにはこれを渡しておく」
リンは一枚の札をアイリーンに渡した。
「これは?」
「見ての通り札だ。これは俺に繋がっていて、これを握りしめる事で俺が反応する事が出来る。だから、俺の助けがほしい時はコイツを握りしめな。すぐにお前さんのとこに行ってやるからよ」
「あなたがすぐに……ふふ、気休めだとしてもありがたいですわ。では頂いておきますわね」
「おう。せっかくだ、もう少しここでゆっくりしていきな。すねこすり達を撫でてってもいいしな」
「ではお言葉に甘えてそうさせていただきますわ」
その後、丘ではアイリーンがすねこすりや子竜と戯れ、リンはその様子を優しく見守っていた。
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