第8話

「婚約者? まさかとは思うが、何もせずに椅子に座ってふんぞり返ってるあのガキじゃねぇよな?」



 リンの視線の先にいるサラサラとした短い金髪の少年は金色の刺繍が入った赤い服を着ており、アイリーンは少年に対して冷たい視線を向けた。



「まさしくその方ですわ。彼の名前はアラン・バーレイ、少し離れた場所にある大国のスラン帝国の第二王子です」

「へえ、そうかぃ。だが、他人に任せて自分は何もしねぇのはいただけねぇな。たとえガキでも欲しいもんがあるなら自分から戦ってなんぼだろ」

「それはあなたの考えに過ぎませんわ。貴族の中ではあのようにして冒険者達を雇って代わりに戦わせるというやり方は普通の事なので」

「ふぅん、つまんねぇな」



 冒険者達と竜の戦闘をリン達はしばらく見ていたが、その内にリンは苛立った様子を見せる。



「……ちっ、くだらねぇ事しやがる」

「リン?」

「アイリーン、おめぇはここにいろ。大天狗、行くぞ」

「わかった」

「ちょっと! 一体どうしたと言うのですか?」



 アイリーンの質問には答えずにリンは大天狗と共に走り出す。そして傷ついた竜と冒険者達の間に飛び出すと、それを見た冒険者達は困惑した。



「な、なんだ……?」

「子供と……翼が生えた大男?」



 冒険者達が攻撃の手を止める中、アランは椅子に座りながらリンを睨み付けた。



「なんだよ、お前は。僕様を誰だと思ってるんだ?」

「黙れ」



 リンの口から静かだが威圧感に満ちた声が漏れる。その瞬間、場の空気が張りつめ、冒険者達は恐怖を感じた様子で短い悲鳴を漏らし、アランは歯をガタガタと鳴らしながら震える手でリンを指差す。



「な、なんだよお前は……!?」

「おめぇらのような腐りきった連中に名乗るなんざくだらねぇこたぁしねぇよ。さっさとそのガキを離しやがれ、下郎」



 リンはアランが尻尾を捕まえている子竜を見ながら言う。対してアランは怯えながらも威厳を保とうとし、再びふんぞり返り始めた。



「だ、誰がお前みたいな愚民の言う事を聞くか……! おい、お前達! そのガキと隣の奴を早く殺せ!」

「こ、この子供を!?」

「僕様の命令が聞けないのか!? 金は前払いしているんだからさっさとやれ!」



 ガタガタと震えるアランの言葉に冒険者達は渋々といった様子でそれぞれの武器を構える。



「ほう、それでも向かってくるったぁ良い根性してるな。お前さん達の事、少しは気に入ったぜ」

「気に入ってる場合か?」

「大天狗、俺達がこんな奴ら相手に負けると思うのか?」

「思わん。異世界の人間の強さがどのような物かはまだたしかではないが、お前の殺気を受けて悲鳴を上げる程度ではたかが知れている」

「だろ? だから、これは殺し合いという名のお遊びだ。遅れるなよ、大天狗」

「我を見くびるなよ、ぬらりひょん」



 リンと大天狗は頷きあった後、恐怖に震えながらも立ち向かおうとする冒険者達との戦闘を始めた。

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