第7話
翌朝、リンは大天狗に掴まれながら山の上を飛んでいた。
「おお、やっぱり空を飛ぶってぇのは気持ちが良いな。大天狗、おめぇいつもこんな気持ちの良さを味わってんのかぃ?」
「そうだな。夜雀や鎌鼬、一反木綿達ともたまに空を飛ぶが、良い気分転換にはなっている」
「そうかぃ。んで、大丈夫なのかぃ? アイリーン」
リンと共に掴まれているアイリーンが顔を青くしながらも答える。
「だ、大丈夫に決まっているでしょう……!? こ
この程度なら問題ありませんわ……!」
「にしては顔が海の色みてぇに真っ青だぜ? そもそもお前さんはついてくる必要がなかったってぇのによ」
「あ、あなたのような人でも一国民ですから……」
「心配してくれたってのかぃ。そりゃあありがてぇこったな」
その瞬間、アイリーンの顔は赤くなる。
「し、心配をしたわけではありませんわ! 勘違いしないでくださいな!」
「大天狗よぅ、こういうのを向こうじゃなんて言ったっけな?」
「俗的な言い方をすればツンデレと呼ばれていたはずだ」
「おお、それだそれだ。まあアイリーンのツンデレは置いとくとして」
「置いておかないでください! そもそもドラゴンを仲間にするとは言っていますが、仲間にしてどうするつもりなのですか? 冒険者ならまだしも力を必要とする生活をしていないあなたには無用の長物でしょう?」
「純粋に竜を仲間に加えて、一緒にこの世界を嗤いてぇ。それ以外に理由なんざいらねぇよ」
アイリーンは不思議そうな顔をする。
「この世界を嗤う?」
「おうよ。住んでみて感じたが、やっぱこの世界の仕組みってぇのはどうもいけすかねぇ。アイリーンとこみてぇにマシな感性持った奴らもお貴族様の中にはいるが、大体の奴が貧民や平民を馬鹿にして、召し使いみてぇに扱おうとするだけだ。どこの世界も同じもんなのかねぇ」
「我らがいた世界の人間共もそうだったからな。まったく嘆かわしい事だ」
「魔術と科学を組み合わせた魔学なんてのがあるのは評価出来るが、別に俺らも妖術使えば同じような事は出来ちまう。アイリーン、少し前にお前さんにも見せてやったろ?」
アイリーンは頷く。
「それはたしかに……魔力の気配を感じないのに物を凍らせたり燃やしたり、雷を操ったり風を吹かせたりなど色々出来ていたのが不思議でなりませんでしたわ」
「それが俺達の力ってわけだ。だから、今さら何かを支配するとか相手をねじ伏せるみてぇな力はいらねぇし、この世界は中々に馬鹿らしい事も知った。だから、嗤ってやるのさ。馬鹿馬鹿しいこの世界や身の程知らずの連中をな」
「馬鹿馬鹿しいこの世界……」
「お前さんもどうだぃ? お前さんにだって我慢ならねぇ奴ぁいんじゃねぇかぃ?」
アイリーンは大きくため息をつく。
「……ええ、おります。以前、あなたにもお話をした私の婚約者がたいそう気に食わない方で、望まぬ婚約というのもあって私も困っているのですわ」
「んな事をそういや言ってたな。婚約の破棄ってのは出来ねぇのかぃ?」
「私達側の方が立場は弱いのでこちらからというのは出来ません。それに、たとえ出来たとしても今度は向こうが侵略のために攻めいってくる可能性が高いです。なので、私は何も出来ずにただ政略結婚をするしかないのですわ」
「つまんねぇ人生送ってんな、お前さんも。俺ならもっと良い景色見せてやれるし、床の中でもこれ以上ねぇってくれぇの快楽を与えてやれるぜ?」
ニヤニヤ笑うリンに対してアイリーンは呆れた様子でため息をついた。
「あなたは本当に品がありませんわね。ただまあ、あなたはまだ男性の中ではマシな方ではあります」
「お、思ったより好感触だな。だったら、俺と契り交わさねぇかぃ?」
「お断りします」
「かっかっか! やっぱお前さんは良い女だ。大天狗、おめぇもそう思わねぇかぃ?」
「さてな。とりあえずそろそろ竜のねぐらに着くぞ」
「あいよ」
拓けた場所に降り立つと、アイリーンは安心した様子で大きく息を吐いた。
「はあー……ようやく着きましたね」
「んだな。さて、さっさと竜とごたいめ……」
リンが辺りを見回すと、アイリーンは不思議そうな顔で話しかけた。
「どうかしたのですか?」
「……血の臭いがする。大天狗、おめぇはどうだ?」
「我も感じている。あちらだ」
「だな。よし……アイリーン、ちっと失礼するぜ?」
「え?」
リンはアイリーンを抱き抱え、大天狗と共に走り出した。
「え、ちょ……い、いきなり何をするのですか!?」
「急がねぇとヤベェみてぇだからな」
「どういう事ですの?」
「話は着いてからだ。じゃねぇと舌噛むぜ」
そしてリンと大天狗が走り続ける事数分、別の拓けた場所に着くと、リン達は足を止めた。
「ちっ、やっぱやってやがったか」
「あれは……」
「竜を討伐しに来た連中だろうな」
「いえ、それだけではありませんわ」
「ん、どういう事だぃ?」
「あそこにいるのですわ、私の婚約者が」
アイリーンが指差す先には竜と戦う者達をふんぞり返りながら見る一人の少年がいた。
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