第6話

「ふう、食った食った」



 リビングでリンが腹を撫でていると、それを見たアイリーンは呆れた様子でため息をついた。



「まったく品がありませんわね。どうしてお食事中はしっかりと品のある食べ方が出来て、終わった途端にそうなるのですか?」

「へっ、これが俺のオンオフだからだよ。それに、ここは俺ん家なんだ。どう振る舞おうが俺の勝手だろう?」

「お客様がいる時くらいはしっかりして下さいな。まあ私の事をお客様とすら思っていないようですが」

「初めて会った時から突っかかってくる女としか見てないな」

「もう……あなたみたいな方が王宮に呼ばれたら冷たい目でしか見られませんわよ? まあお父様はあなたの事をたいそう気にいっていらっしゃるようですが……」



 アイリーンが額を押さえる中、リンはニヤリと笑った。



「王様と俺は波長が合うんだよ。お前さんは俺の事が気に食わねぇようだけどな」

「それは間違いありません。ですが、あなたのような方をこのリギス王国内にいさせておいては国の品位自体に関わります。ですからこうして何度も訪れては品のある行動を取るように言っているのです。そうでなければあなたのような愚か者に関わる必要などありませんもの」

「おれぁ結構あんたの事は気に入ってるんだぜ? 少々うるさいとこはあるが、見た目も風格も中々のもんだからな。どうだ? 俺の女にならねぇかぃ?」

「謹んでお断りいたしますわ」

「おやおや、即答かぃ。まあ良いさ、そういや今日もアイツを触っていくかぃ?」



 その瞬間、アイリーンはハッとする。



「……良いんですの?」

「おうよ。アイツも結構お前さんを気に入ってるようだし、お前さんもアイツの事は大好きなんだろ?」

「もちろんで……こほん、まあどうしてもと言うのなら本日も撫でて差し上げてもよろしいですわ」

「素直じゃねぇな。まあとりあえずアイツもここに呼ぶかね」



 リンは一冊の本を出現させる。そしてその中のあるページを開き、そこに手を置くと本のページから光の玉が出現し、リンの膝の上に移動するとそのまますねこすりの形になった。



「おじいちゃん、何か用事?」

「おう、すねこすり。アイリーンがおめぇを今日も撫でてぇみてぇなんだ」

「そうなんだね。アイリーンお姉ちゃん、こんにちは」



 すねこすりが笑みを浮かべると、アイリーンの表情は緩みきった物になり、両手をすねこすりに近づけると、幸福そうな顔ですねこすりを抱き上げた。



「か、可愛らしいですわ……」

「すねこすりはウチの癒し系担当だからな。本人はもう少しかっこよくなりてぇようだが」

「もちろん。おじいちゃんはもちろん、酒呑童子さんや茨木童子さん、大天狗さんに犬神さんみたいなカッコいい妖怪はいっぱいいるんだもん。僕もあんな風になりたい!」

「酒呑童子や茨木童子達は普通の妖怪というよりは鬼の部類だが……まあ良い、おめぇなりに色々頑張ってみるんだな、すねこすり」

「うん!」



 アイリーンに撫でられながらすねこすりが答えていると、アイリーンはリンに視線を向けた。



「それにしても、あなたはまだ私と同じ年齢だというのにこの子からはおじいちゃんと呼ばれているのが相変わらず不思議ですわ」

「前も言ったろ? おれぁ前世では長く生きてきた妖で、百鬼夜行を率いるぬらりひょんだってな」

「だから、そのぬらりひょんがわかりませんわ。この子、すねこすりも元々あなた方が住んでいたというジング国で伝えられている何かではないようですし」

「この世界には妖怪ってぇのがいないみてぇだからな。その代わり、竜みてぇな奴らはいるようだから退屈はしねぇが」

「そういえば、そろそろ竜を仲間にしたいって言ってたね。いつ行くの?」



 すねこすりの発言にアイリーンは目を見開いて驚く。



「な、何を仰っているのですか!? ドラゴンは上級の冒険者達ですら手を焼く相手。あなた方で相手出来るようなモノではありませんわ!」

「かっかっか! それくれぇ歯応えが無くちゃ困る。因みに、もし俺が竜を本当に仲間にしたらどうする?」

「ま、まあそんな事はあり得ませんが、もし本当に仲間に出来たならあなたの事を見直して一日だけなら一緒に過ごすくらいは許して差し上げますわ」

「くくっ、言ったな? すねこすり、向こうに帰ったらアイツらに言ってくれ。明日は竜を百鬼夜行に加えに行くってな」

「はーい。みんなやる気満々になると思うよ」

「だな。へへっ、アイリーンが驚く面を見るのが楽しみだぜ」



 ぬらりひょんの発言にアイリーンは頭を抱える。



「もう……ここまで愚かだとは思いませんでしたわ」

「男は変にお行儀よくしてたり知識ひけらかしたりしてるよりは馬鹿な方が良いんだよ。覚えときな、アイリーン」

「まだそんな事を……もう、愚かもここまで来ると手の施しようがありませんわ」



 アイリーンが呆れる中、リンは静かにニヤリと笑った。

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