第一章 少年期

第5話

「おーい、リン。そろそろ休憩にするぞー」

「ん、もうそんな時間かぃ。あいよぉ、いま片すからちっと待っとくれ」



 のどかな雰囲気が漂う村の一角、リンと呼ばれた少年は答えると手早く作業を終わらせた。短い黒髪と血色の良い肌に小柄な体躯、まだまだ幼さの残る二枚目顔、といった容姿のその少年は作り終えた自分の背丈よりも多い薪を背負うと、自分を呼んだ人物のところまで駆け寄った。



「待たせたな、おっとさん。薪の量はこんなもんでいいかぃ?」

「ああ、充分すぎるほどだ。リン、お前は本当にスゴいな。まだ七つなのに他の子供よりも力が強く、何事も呑み込みが良いんだからな」

「んなの当然だぃ。おれぁちんまい頃から何かを頑張るってぇのは悪ぃことだとは思っちゃあいねぇからな。努力が必ずしも報われるわけじゃねぇが、報われるって考えながらやってた方が気持ちも良いしな」

「それは同感だ。お前のその不思議な雰囲気と努力家な一面のおかげで、異国であるこのリギス王国に移住してきた時からこのロドン村にも馴染めたわけだから本当に感謝してるよ」



 父親の言葉にリンは大きな笑い声を上げる。



「かっかっか! 別におれぁ何もしてねぇさ。おっとさんとおっかさんの人当たりの良さがあったからロドンの連中も受け入れてくれたのさ。まあ元々住んでた国が無くなっちまったってぇ事情もあっからなのかもしれねぇけどな」

「そうだな。さて、さっさと家に帰って食事にしよう。お前も流石に疲れただろ?」

「おれぁまだまだやれるが……無理をしても仕方ねぇからな。おっかさんのうめぇ飯を頂くとするかね」

「ああ、そうしよう。よし、それじゃあ──」

「あなた、こんなところにいましたのね!」

「んー……?」



 リン達の視線の先には長身の男性を伴って立っている一人の少女がいた。綺麗に整えられた長いブロンドヘアに紫色のドレス、そして胸元につけられた赤い宝石の装飾品は周囲の目を引くものだったが、リンは少女を見ながら欠伸を漏らした。



「ふわ……なんでぃ、あんたか。今日も城からわざわざご苦労なこった」

「あなた、本当に礼儀がなっていませんわね。リギス王国の第二王女であるアイリーン・オールブライトが来てあげたのですから気の効いた言葉の一つやかしづいて挨拶くらいしたらどうなんですの?」

「あんたはそれを望むのかぃ? 俺がんな事をしたら気持ち悪がるのはあんたじゃねぇか?」

「う、それはたしかに……」

「だろ? とりあえずわざわざ来てくれたんだ、もてなしくらいはするさ。おっとさん、アイリーン達を家まで連れてってもいいかぃ?」

「ああ、もちろんだとも。アイリーン様、来て下さいますか?」



 アイリーンは側に立つ男性と頷きあってから答えた。



「仕方ありませんわね。お城よりも狭くて貧相ではありますが、せっかくのお呼ばれを断るのは淑女ではありませんから」

「決まりだな。んじゃあ行こうぜ」



 リンの言葉に全員が頷いた後、一行はゆっくり歩き始めた。

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