第9話
「な、なんなんだアイツらは……」
アランは恐怖していた。第二王子であっても自身は高貴な存在なのだという思いが彼を動かし、突如現れた邪魔者達を多額の金銭で雇った冒険者達に殺させようとしたが、目の前の光景はアランの想像とは異なる物だった。
「くっ、このっ!」
「どうして!? なんで魔法が全部当たらないのよ!?」
「かっかっか! ハエが留まる程度の動きでこの俺を捉えられるわけがないだろう!」
男性の剣士と女性の魔術師と相対するリンは自身の背丈を超える程の刀と一冊の本を手にしながらまるで風のような軽やかさで剣による攻撃とあらゆる魔法を回避しており、その表情は余裕綽々といった物だった。
「がっ……があぁっ!」
「そ、そんな……」
「やはりその程度か。その弱さ、まったくもって笑えんな」
重装備のはずの騎士の男性を大天狗は重さなど感じていないかのように持ち上げるとその首をゆっくりと片手で締め上げ、その様子を見ながらヒーラーの女性は絶望しきった表情で膝をつくしかなかった。
蹂躙という言葉が似合うその惨状にアランは今すぐにでも逃げ出したい程の恐怖を感じて足を震わせていたが、荒くなった呼吸をしながら手に持った子竜をリン達に見せた。
「お、おい……! おとなしくやられないとコイツを僕様が殺すぞ!?」
「んー……ああ、それなら問題ねぇな」
「も、問題ないだと!?」
「ああ、何故なら──」
リンの言葉を遮るように辺りが揺れる。そしてアランを覆うように大きな影が出現すると、アランはガタガタと震えながら上を見上げた。傷ついていたはずの親竜が怒りの炎を目に宿しながら自身を見ている事に気づくと、アランは恐怖のあまり泡を吹きながら気絶し、脱力した手から子竜が滑り落ちた。
「おおっと!」
その下に爪が鎌のようになった二匹の鼬が滑り込む。
「俺達がいるんだ、地面との衝突なんざさせねぇぜ?」
「この子は傷ついてないようだから、親の方の治療を再開しよっか」
「だな。おーいおやぶーん、こっちは問題ねぇからさっさと終わらせちまって良いぜー」
「おうよ! 鎌鼬三兄妹、おめぇら相変わらず良い仕事するじゃねぇか!」
三匹の鎌鼬達が誇らしげに笑みを浮かべていると、剣士の男性は肩で息をしながらわけがわからないといった顔でリンを見た。
「お前……ほんとに何者なんだよ!」
「そうさな、おめぇ達になら名乗っても良い。おれぁ百鬼夜行の主、ぬらりひょんだ。そしてそこの大男は百鬼夜行の一員の大天狗、あの親竜を治療していたのが同じく百鬼夜行の一員の鎌鼬三兄妹だ」
「ひゃ、百鬼夜行……?」
「おうよ。俺達のような妖の一団、それが百鬼夜行だが今日からあの竜達も俺達の仲間にする。これ以上傷つけようって言うなら、ただじゃおかねぇぜ?」
どこからか取り出したキセルを加えながら不敵な笑みを浮かべるリンの姿に剣士の男性と魔術師の女性は戦意を喪失した様子で膝をつき、それを見た大天狗は騎士の男性を離した。
「ぐっ……ごほっ、ごほっ……!」
「お前達が守るべきは本当にあのような愚者なのか? たとえ金を積まれようとも本当に守るべきものを見失うな」
「し、仕方ないだろ!? 俺達だって生活があるんだ!」
「そのためにはあんな嫌な子供のためでも働かないといけないのよ!」
「その気持ちはわかる。だがな、お前達がへいこらしていたらいつまでもああいうのはつけあがる。それはわかってるはずだぜ?」
「くっ……」
冒険者達が揃って項垂れる中、リンはアランに視線を向けた。
「今回は見逃してやる。さっさとソイツを連れて消えな」
「わ、わかった……」
「もしだが、まっとうに生きたければロドンってとこに来な。おめぇらみてぇな奴らでも受け入れてくれるはずだからな」
「…………」
冒険者達は何も答えずにアランや椅子を担ぐと、そのままリン達を残して歩き去っていった。
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