第2話

「俺の力を見込んで、か。たしかにおれぁ荒くれ者が多い百鬼夜行を率いちゃいるが、俺自身は大したこたぁねぇぜ? おれぁ人様の家に勝手に上がり込んでは菓子や茶を飲み食いして帰るだけの妖に過ぎねぇんだからな」

「妖怪の総大将とされているのはあなたが生まれてから遥か後に作られた話ではあるようですからね。ですが、実際にあなたは百鬼夜行の主として現代でも名は通っていますし、腰に差したその業物もなまくらではないですよね?」

「当然だ。おれぁ今まで自分てめぇが生きてきた世界ってぇのがあんまり好きじゃあなかった。人間共は技術の発達と共に馬鹿ばっかになっていき、人間以外の生き物を疎かにし始めたかと思えば、仲間であるはずの人間すらも使い潰し始める始末だ。だからおれぁやってやるって決めたのさ。百鬼夜行の仲間達と共に世界を嗤ってやるってな。そのためには自衛の手段だって必要だろう?」

「そうですね。因みになのですが、あなたはもう死んでいる事をご存知ですか?」

「お、そうだったか。おれぁ何で死んじまったんだぃ?」

「おやつ時に食べていた大福餅を喉につまらせた事による窒息死です」



 ぬらりひょんは額に手を当てながら笑い出す。



「かっかっか! そんな間抜けな死に方したってぇのか! こいつぁ愉快だ!」

「死のショックで直前の記憶が抜け落ちていたようですね、現在あなたの遺体は百鬼夜行の方々の手の中にあり、皆さん悲しみに暮れながら葬儀の準備をしています」

「そいつぁいけねぇや。どんな死に方だろうとアイツらには笑って見送ってもらわねぇと」

「それは中々難しいのではないですか? 大切な存在であるあなたが亡くなったわけですし、悲しみに暮れるのは当然かと」

「おれぁ悲しみの涙ってぇのが嫌いでな、どうせ泣くなら笑いすぎて出る涙や嬉しくて出る涙の方が良いんだ。だからこそ、アイツらにそれをもう一度叩き込んでやらにゃいかん。女神さんよ、アイツらのとこに行く方法はあんのかぃ?」



 女神は静かに頷く。



「ございますよ。であれば、百鬼夜行の方々にもお願い事をしましょうか」

「そういや、んな事を言ってたな。まあそれはアイツらと一緒に聞くとするか」

「はい、そういたしましょう。その方が説明の手間も省けますので」

「女神さん、あんたもたいがい面倒事が嫌いなタチかい?」



 ニヤリと笑うぬらりひょんに対して女神は笑みを浮かべながら答える。



「ええ。他の神々の中には極めて勤勉であったり細かい説明を幾度もしても構わないといった者もいたりしますが、私は効率的に出来るならばその方が良いタイプですよ」

「かっかっか! おれぁ正直な奴ぁ好きだぜ? 世の中にゃあちっとウジウジしてたり他人と話すのが苦手って奴も少なからずいるが、悪意を持ってソイツらをからかう奴らよかからかわれている奴らの方を仲間に加える。性根の腐った奴らなんかよりもよっぽど救いようがあって、今後が楽しみになるからな」

「なるほど、それがあなたの基準ですか。ますますあなたに興味が湧きましたよ」

「俺もだ。良い女なのもあってますますあんたの事が欲しくなったぜ」

「ふふ、その件についてはまた今度。ではさっそく参りましょうか」

「おうよ」



 女神とぬらりひょんは白い光に包まれると、そのまま静かに姿を消した。

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