第3話

 ネオンや街灯が煌めき、人々が行き交う音が響く街から大きく離れた山奥にある一軒の屋敷があった。大きな庭に咲く色とりどりの花達や中に飾られた多くの調度品、そして多くの物がしまわれた倉などが眠りについたような静けさに包まれる中、多くのモノ達が悲しみに暮れていた。


 着物姿の女性や三毛猫といったモノがいる中で額から角を生やし巨大な盃を持った赤肌の筋骨隆々の男や小さな犬の姿をした何かがおり、その中にいた二本足で立つ狩衣姿の茶色の犬は大きなため息をついた。



「まったく……我らの主は最期まで困った男だったな」

「ほんとよ……大福餅を喉につまらせて死んじゃうなんて馬鹿にも程があるじゃない……!」

「うぅ、おじいちゃんにもう会えないなんて寂しいよぉ……」

「すねこすりの気持ちは良くわかる。俺も酒を酌み交わす相手はあやつぐらいしかおらんからな。この先飲む酒も味気ないものになってしまうな」

「酒呑童子達は復活させてもらった恩義もあるから尚更寂しいでしょうね。もちろん、私達もだけど……」

「百鬼夜行の誰もが親分には恩義があるからな。はあ……これからどうしたもんだろうな」



 そこに集まった百鬼夜行達に笑みはなく、暗い表情を浮かべながら揃ってため息をついていたその時だった。



「おいおい、なにしけた面してんだ。てめぇらはよ」

「え……!?」



 目に涙を浮かべたすねこすりが顔を上げ、それに続いて百鬼夜行の面々が声がした方に顔を向けると、そこには不敵な笑みを浮かべるぬらりひょんと静かに微笑む女神の姿があった。



「おじいちゃん……本当におじいちゃんなの?」

「おうよ、すねこすり。おめぇ、そんな雨みてぇに涙流してっとその辺がびしょ濡れになってみーんな溺れちまうぜ?」

「このボウズがそこまで泣いてたら干からびて死んじまうっての。まあお前さんならガブガブ酒飲みやがるからあり得ねぇ話でもねぇけどな」

「酒呑童子よぅ、だいぶ言いやがるじゃねぇか。また酒飲み勝負で負かして面目を潰してやろうか?」

「へっ、今度は負けねぇよ」



 酒呑童子が腰のひょうたんから盃に酒を注ぐ中、すねこすりを始めとした妖達はぬらりひょんに駆け寄った。



「親分!」

「あんた、本当に馬鹿じゃないの!? アタシ達を残して死ぬなんて許さないんだからね!」

「かっかっか! だが、俺的には中々愉快な死に方だと思ったぜ? 食いもんで死ぬなんてその辺のジジイやババアみてぇでつい笑っちまったさ」

「あんたがいなくなっちまったら俺達はまた日陰に隠れて過ごすしかなくなるんだ。そんな簡単に死なんでくれ」

「おうよ、がしゃどくろ。さて、百鬼夜行全員が来てるみてぇだし、女神さんから話を聞くとするか」



 ぬらりひょん達の視線が集中する中、女神は笑みを浮かべながら頷いた。



「そうですね。皆さん、あなた方の大将であるぬらりひょんさんにあるお願いをするために亡くなったばかりの魂を呼び寄せました。そしてその仲間である百鬼夜行の皆さんにも同じようにお願いをしたいのです」

「め、女神様からのお願い……」

「へえ、それは面白そうだね。ボクの幸運を引き寄せる力も何かの役に立ちそうだ」

「ああ、頼りにしてるぜ。座敷わらし。まあ他の連中にも色々力を借りるわけだが、あんたの依頼の内容は管理する異世界に関する事なんだろう?」

「察しが良くて助かります。今回皆さんにお願いしたい事、それは」



 女神はぬらりひょん達を見回してから口を開いた。



「異世界に行き、そこに発生している歪みを正してほしいのです」

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