時代

あらいぐまさん

第1話 時代

 作業所の創成期を経験した、私は、振り返って思う、あの頃は、熱意があってスタッフは、純粋に、何とかしようという空気があった。

 私は、まだ、若く物事についての良し悪しが分からなかった。

 私は、精神障害の他に、身体の内部障害があって、併発した、精神障害も相まって、とても、一般社会に受け入れられる人間ではなかった。

 私は、その事実に気が付くのに、長い時間がかかった。


 やがて、少しずつ、私は、成長していった。しかし、自分が成長しているという実感は、なかった。場所を変え、時が過ぎると、作業所は、いつの間にか、ビジネスの場へと変貌していった。


 私たちを作業所が、受け入れるには、彼らの組織を、どんどん大きくして、良質な精神障がい者を、確保する必要があった。

 そうしないと、比較的軽度の精神障がい者を、治癒してしまうと、作業所を出て行ってしまい、その代わりに、具合の悪い精神障碍者が、どんどんやってきて、そこにいた、程度の悪い精神障がい者と合わさって、作業所の空気がどんどん悪くなるからだ。

 スタッフが、一生懸命、みんなのために働けば、働くほど、自分の首を絞めることになり、臭いものに蓋よろしく、干渉しないで、見守りだけをする楽な仕事をするようになり、彼らの士気は落ちていった。 

 その間に、新しい薬や、いくつかの学説が登場したが、その空気を一掃することは、できないように見えた。

 ブラックな組織を維持するために、お金の力がものを言い、その世界に、大きな力を持つようになり、純粋な志や、やさしい気持ちは、新しい世界の出現を待って、ひっそりと、隠れているようだった。


 私は、身体障害により、どんなに一生懸命働いても、いや、働けば働くほど、仲間たちが、快癒して、社会に、出て行ってしまっても、私の障害は、一般の社会に理解されず、結果、彼らの後を追うことはできなかった。

 私は、いつも、作業所に残されることになった。


 そこで、私は、自分の仕事として、記録と言うものに、心を動かされた。

私の立ち位置や、持っている技術のアップグレード、さらに、どこに向かうべきかを知るには、記録を取らなくてはならなかったからだ。


 ステイタスを上げて、声を上げなくては、私は、世の中の人達に一生、私という人間を理解してもらえないと思った。

 確かに、1日や2日、記録をつけたところで、何も変わらないが、2,3年と、記録を、取り続けると、記録をつけないと気持ちが悪いという、感覚になる。

 そうして、初めて、私は、行動に移すことができるようになった。


 私は、どんな記録を集めて、どんなことを考えて、どう行動をして、その結果について、どう思ったのか?

 振り返ってみると、それは、記録が残っている、平成14年頃から、私の執筆家としての、実践者としての、戦いが、静かに始まっていた……。 


 

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時代 あらいぐまさん @yokocyan-26

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