私の人生

あらいぐまさん

第1話 私の人生

 私は、元々貧乏な暮らしをしてきて、子供のころから、余り玩具を買ってもらった記憶がありません。私は、もっぱら、学校図書の「怪人二十一面相」や、「アルセーヌ・ルパン」などを読んでいました。

 そのお陰で、結構、怪しい人間? になりました。


 自我の芽生えるころ、母が、緑のハードカバーの「坊ちゃん」や「三四郎」、「二十四の瞳」などを、読み聞かせてくれました。

 そんな私ですが、一つみんなと違うのは、私には、身体的な欠損がある事です……。

 私は、その事で、子供の頃から、いつも母と対立していました。

 母は、私の病気の事を、私に一切、教えてくれませんでした。

 理由は、病気に逃げ込んで、ろくな人間にならない、と、言う、アンフェアーな考えからでした。「大人になったら、治る」と言い張って、私の口を塞ぎました。


 私は、成人して、大人になって社会に出ても、欠損の障害は治る事はありませんでした。

 私は、その障害を周りに隠す事が出来なくなって、その障害を認められずに、周りの人達を恨み、精神障碍者になりました。

 母は、間違っていました。病気を理解しなければ、病気を受け入れる事は出来ません。


 精神障碍者になって、暫くすると、母は、交通事故で亡くなりました。

 私は、自分の苦しみを訴える対象を失いました。

 すると、私は、苦しみを訴えることが怖くなりました。

 その状態は、母に向かっていた刃が、刃先を換えて、自分の喉元に突きつけられた様な、死にたい程、辛い事でした。


 そんな時、自分を支えたのが、本の存在でした。

 私は、戦争の本や、宗教の本、生態学の本や、お金についての本、侍の事について書いた本や、心理学の本に、はまりました。

 色々、本を読んでいる内に、私も、生活の場になっている、作業所の様子について、一般の人達が、理解できるような、創作小説を書いて、それを、本にしたいと思いました。


 結構、頑張りました。と言うか、それしか出来なかったのです。

 私は、幻聴が、聞こえていて、何かに集中していないと、幻聴に飲み込まれてしまうからです。私は、必死に本を読んで、集中しました。


 幻聴との戦いの後は、へとへとに疲れてしまい、とても、運動しようという気にはなれませんでした。

 出来る事は、鉛筆を握りしめる事だけでした。


 あれから、鉛筆を握り、作業所に通いながら、16年の研鑽の末、文章の技量が上がり、その結果、何とか「本」に仕上げました。私は、何かに秀でれば、草原に捨てられたナイフの様に、誰かがこの「本」を見つけて、何とかしてくれると思って、頑張ったのです。


 でも、それは、旅行にもいかず、ネオン街にもいかず、博打もやらずに、酒を少々飲んで、タバコを吹かして、生きていく事でした。

 それは、とっても、つまらない人生だったのです。


 でも、私と文章は、これからも続いていく事でしょう……。

 私は、今では、この世に、生かされている事は、何か意味があるような気がしてなりません。ただ、今は、自分のできることを、精一杯するだけです。

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私の人生 あらいぐまさん @yokocyan-26

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