第34話

 国王陛下から与えられた休みは十日間。

 この休みで、俺はこれまで旅でお世話になってきた人たちに恩返しをしようと思っていた。

 ソニア様、アズール、ルージュ、アッシュ、ルファ、ヒナ、クレナ、ピピン、リサ、師匠、両親、ケミィ……とこんなところだろうか。王都にいる九人は一日ずつ割くとして、あと一日で師匠と両親とケミィに王都土産でも用意すればいいかな。

 そう思い、みんなとスケジューリングする。みんな最初は遠慮していたが、俺の強い意志を感じたのか最後には付き合ってくれることになった。

 スケジュールとしてはこうだ。



 一日目 リサ

 二日目 クレナ

 三日目 ヒナ

 四日目 ピピン

 五日目 ルファ

 六日目 アッシュ

 七日目 ルージュ

 八日目 アズール

 九日目 ソニア様



 なんかほとんど出会った順の逆になったな。まあ、何かの偶然だろう。

 ちなみに一体一で出かけるのは俺の希望でもあるがみんなの希望でもある。一応、パーティーでまとめてでも良いと声はかけたが、断固として一体一を希望するらしい。

 そのときの『ヴィーナス』の気迫は凄まじいものがあったというのは蛇足かな。



 一日目 リサ


「お、お待たせしました〜」


 と言って近づいてくるのはリサだ。俺と同じ黒髪を、今日は二つおさげにまとめている。服装もツートーンカラーにして、まるで本の中の女の子みたいだ。


「ああ、いや、俺も今来たところだ。今日はどうしようか?」


「え? わ、私が決めていいんですか?」


 と聞かれたので、肯定する。


「そ、そしたら、古本屋に行きたいです!」



 というわけで、古本屋にやってきた。


「やっぱり、王都は古本屋も大きいですね〜」


 と感動気味のリサ。そんなに感動してくれるのならば来てよかったな。なんて、まだ入ってもいないのに思ってしまう。


「さ、入りましょう!」


 と背中を押され、古本屋の中へ。

 特有の使い古された紙とインクの匂いに一瞬で包まれる。


「う〜ん、いい匂いですね〜」


 とリサが言うので、


「ああ、そうだな。こう、本に囲まれてるって感じがする」


 と返す。するとリサは、


「そうなんですよ。私は普段から本に囲まれてますので、こういう匂いが落ち着くんです」


 と研究者っぽい言葉選手権堂々の一位になりそうな言葉を発する。


 その後は店内を見て回り、お互いに気になる本を探す。リサはさすが魔法の研究者というべきか、魔法の本を探していた。一方の俺はというと、


「それ、料理の本ですか?」


「ああ、採取した物を何かに活かせないかと思ってな。薬学は既習だし、料理だったら自分だけじゃなくてみんなを喜ばせることもできるだろ?」


「さ、さすがはソウヤさんです!」


 ということで料理本を買うことにした。数ある料理本の中でも、『簡単おいしい!帝国式家庭料理』という本がこの辺りでは見かけない本だったのでそれに決めた。



 俺が料理本を買って半時間ほど。リサはまだ何を買うか決まらないみたいだ。ただ欲しい本がないわけではなく、


「う〜ん、『恋の魔法大全』にすべきか、『愛の魔法辞典』にすべきか……悩むなぁ」


 と言っているので、


「悩んでるなら、両方買ってやるよ」


 と言うと、

 

「えぇえええ、ソウヤさん、いつからそこにぃいい!? ではなく、そういうわけには!」


 と酷く驚かれてしまった。何、そんなに顔を赤くして目を回しているんだ? 恋や愛に魔法が欲しいと思うなんて、誰にでもあるだろうに。

 それはともかく、遠慮するリサに、


「今日はリサに感謝する日だからな。それくらいさせてくれよ」


 と申し出ると、


「あぅう……」


 と言いながら両方の本を差し出してくる。


「毎度あり!」


 一度に三冊も本が売れた店主はとても嬉しそうだったが、リサはそれ以上に嬉しそうだった。やはり来てよかったな。


 

 結局、古本屋でだいぶ時間を使ってしまったので、あとは遅めの昼ご飯を一緒に食べて別れることになった。その昼ご飯も、古本屋の近くにたまたまあったカフェで軽食を取るくらいでいいらしい。まあ、夕食のことを考えればそんなもんか。

 リサはミックスサンドイッチを、俺はトマトのパスタを注文した。パスタはコシがあって美味しかったし、サンドイッチも野菜が新鮮で美味しかったみたいだ。



「今日はありがとうございました! とっても楽しかったです!」


 とリサが言ってくれる。


「わ、私、普段は研究所に篭もりきりで、こうやって誰かと出かけるなんて久しぶりで……。でも、それだけじゃないっていうか、あの、その……。と、とにかく、ありがとうございました!」


 そこまで喜んでくれるなら企画した甲斐が有るってものだ。こちらも嬉しくなりながら、リサと別れるのだった。

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