第32話
シュザックの丘。ボッカ王国の最南端に位置し、南海に面した小高い丘である。
ここには燃え盛る炎の鳥、不死鳥の巣があり、俺たちはその炎を貰うためにここを訪れていた。
シュザックの丘の頂上、最も高い場所の中心は窪んでおり、その窪みの中に不死鳥はいた。
「あれが……不死鳥……」
神秘的で、それでいて凄みがあり、俺たちはその不死鳥の雰囲気に呑まれそうになっていた。
「人間たちよ、何か用ですか?」
と先んじて不死鳥が話しかけてきたので、思わず
「喋った!?」
と全員揃って驚いてしまった。
「長く生きていますから。人間の言葉も覚えてしまいました」
あっけらかんと不死鳥が答える。いや、覚えるとかじゃなくて発声器官とかの問題があるだろう。と思ったが、喋る鳥もいるもんなぁ。ドラゴンも喋るし。不死鳥が喋っても不思議じゃないか。
「それで、何の御用ですか?」
と不死鳥が二度目となる質問を投げかける。
「私の家族の病の治療にあなたの炎が必要なのです! 魔道具に炎を移させてもらえませんか?」
ソニア様が必死に訴えると、不死鳥は
「なるほど、ダルン病ですか」
と即座に言い当てる。
「よろしいでしょう。ただし、実力で奪い取って見せなさい!」
あー、やっぱりね。そうなるよね。予想通りだ。
双方戦闘態勢を取る。とはいえ、こちらはそんなに難しいことはない。相手が炎を使った攻撃をしてくれれば、そこから炎を移してしまえば良いのだから。
という考えは非常に甘かった。
不死鳥は速攻で逃げ出してしまったのである。
これは、戦闘ではなく……
「追いかけっこかよ!」
不死鳥の炎を賭けた追いかけっこが始まる。
シュザックの丘の下は平原になっている。追いかけっこの舞台はどうやらそこらしい。
それにしてもとんでもない速度だ。全員が強化魔法を含めて自分の出せる全速力を出してはいるが、それでも追いつくことはできない。寧ろ差がどんどん開いていくばかりだ。
これは闇雲に追いかけてもダメだな。作戦を練ろう。
さあ、作戦を考えたところで試合再開だ。
不死鳥は高く飛び上がることはなく、低空で飛び回っている。まず、仲間からの強化魔法プラス自分への身体強化魔法の重ねがけをすることにより俺たちの中で最速を誇る俺が素直に追いかけていく。
それでも着いていくので精一杯だ。さらに不死鳥はジグザグとした動きで翻弄してくる。くそう、まったく相手になっていないぞ。だが、それでいい。俺だけを意識していろ。
不死鳥を後ろから追いかけて、岩がゴロゴロと転がっている場所に着く。
すると、周囲の岩の影に隠れていた仲間たちが一斉に飛び出した!
そう、追いかけてダメなら、囲んで逃げ道を塞いでしまえばいいのだ。
驚いて一瞬動きが止まった不死鳥に対して俺が突っ込んで行く!
……しかし、すんでのところで不死鳥は身を翻し、俺の突進を躱した。あ、ちょっとドヤ顔してやがる。ふっ、油断したな。
シュッ!
と空気を切る音がして、木の矢が不死鳥を襲う。ピピンが放ったのだ。俺に気を取られていた不死鳥は反応が一瞬遅れるが、不死身の不死鳥は躱すまでもなく、矢はその身を貫通した。
そう、木の矢が、炎の身体を貫通したのだ。つまり、木の矢に不死鳥の炎が引火することになった。その向かう先には魔道具化した魔宝石を持つリサがいた。
リサは上手いこと魔宝石で矢を受け止め、魔宝石に炎が燃え移った。
「あっつーーー!」
あ、そうだ! 作戦は炎を燃え移らせることまでで、その先どうやって持ち運ぶかとか考えてなかった!
「……くない?」
えっ、熱くないの?
「ええ、私の炎は生命の炎。燃えているように見えて温度は人肌とそう変わりません」
いつの間にか不死鳥が傍に寄ってきていた。そうなのか。つまり、温かいくらいということなのか。生命の神秘だ。
「しかし、してやられました。最初にスピードを見た時、決め手はあなたで来るとばかり思ってしまいました。まさか矢が飛んでくるなんて」
と俺に向けて不死鳥が言った。そうだろうそうだろう。矢が効かないこともわかっていたし、それを含めて不死鳥は避けないだろうという算段があったのだ。それが上手く嵌った結果だな。
「見事、あなた方は私の炎を託すに相応しい実力を見せました。ご家族、良くなると良いですね」
と不死鳥が優しく言う。人の言葉を真似するだけでなく、暖かい心まで持ち合わせているとは。炎だけに。不死鳥、なんて凄い奴なんだ。
不死鳥に感謝して、俺たちは炎を持ち王都に帰ることになったのだった。
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